多事想論articles

逆算発想の振り返り

人や組織はいったいどんな時に成長するのでしょうか。そのきっかけは様々で、残念ながら一言で言い切ることは困難です。但し少なくとも、『当事者自らが問題を自覚し、その原因に気づくプロセスを体験すること』が、そのきっかけの一つになることは間違いない様です。そういった意味から、自らが身近に体験した出来事を振り返り、今後の教訓を獲得して活かす、PMBOKなどで言うLessons Learned的なアプローチは有効です。 開発業務でLessons Learnedを上手くまわしていくために、プロジェクトの完了やフェーズ終了時に、『振り返りレビュー』として具体的にマイルストンとして設置している企業も少なくないと思います。

その振り返りレビューを人や組織の成長の機会としてうまく機能させるコツとはどんなものでしょうか。まず題材の選定です。あまり細かく網羅的にピックアップしても人間の記憶や処理能力には限界があります。すぐに忘れ去られてしまうものより、例えば最高に上手くいった事と二度と繰り返したくない失敗を3つずつといった具合に題材を絞って選んでみてください。プラスとマイナスの両極端を知っておけば、その間はなんとかなるという位の割りきりが必要です。次に振り返りの方法ですが、ここでは結果事象ばかりを評価するのではなく、その結果の原因となった『起点タスク』に遡る逆算発想で考える習慣を身に付ける様に心掛けてください。もし今の結果が良ければ、それは例えば半年前の計画や判断といったタスク処理が適切に行われたからでしょうし、逆に悪ければその原因も必ず過去に潜んでいたはずです。ですから、その結果を導いたプロセス上の起点タスクを明確にしておくことが必要です。ここで一つ問題となるのが、その結果事象と起点タスクは複数のタスクを間に挟みながら間接的に依存し合い、結果として事象が引き起こされているということです。それらのタスクは、タスク処理に要するINPUT情報と処理後に出力されるOUTPUT情報でつながり依存しあっています。この様なタスクの依存関係は複雑に絡み合いなかなか整理しづらく、振り返りを困難にさせる一つの要因となっています。これらをわかり易く一覧で整理するには、DSM(Design Structure Matrix)の表記方法が有効です。DSMとは行方向と列方向に同じ業務タスクを時系列順に並べた表です。読み方のルールは、行方向のタスクが情報の受け取り先、列方向のタスクが情報の出力元です。例えば以下のDSMでは、タスクBはタスクA、C、Dの3つのタスクから情報を受け取り、処理することを意味しています。

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もしタスクFで重大な問題が生じたのなら、まずタスクBの出力情報の質やタスクFの処理内容を疑いますが、そこに真因が潜んでいないと判断した場合、タスクBの処理に使われたタスクA、C、Dの出力情報の質を疑っていく必要がある訳です。

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(DSMの詳細説明は、用語集「DSM」を参照ください)

このようにDSMを用いて日ごろからプロセスを整理しておけば、逆算で情報の連鎖関係をスムーズに辿ることができ、振り返りレビューを効率的に行うことができます。

最後に振り返りの内容ですが、起点タスクの時点でとった行動をリストアップし、何故その時点でその行動が取れたのか?または取れなかったのか?を振り返り議論しましょう。行動が取れた理由には、判断材料となる先行指標の情報が可視化されていた場合が多いですし、取れなかった理由は意外にもなんとなく予感はしていたが、誰も判断せずに放置していたといったことかもしれません。以上のようなポイントを踏まえながら振り返りレビューを重ねれば、逆算発想による知識連鎖の神経回路が自然と形成され、重大な結果の要因となるちょっとした予兆を鋭く捉える感覚が身につくはずです。課題解決に向けて自らが率先して取り組み、次のプロセス改善に確実につなげていきましょう。

執筆:妹尾 真
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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