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チームワーク

いよいよ今年は北京オリンピックです。野球やサッカーの日本代表チームはアジア予選を見事に勝ち抜き、北京への切符を手にしました。予選を戦う中では苦しい時もありましたが、予選突破という結果が得られたことは、良いチームワークの証左でもあります。 チームスポーツだけでなく個人競技にも、その裏にはチームの働きがあります。マラソンや水泳などの一流選手は、コーチ、戦略分析担当、映像分析担当、運動生理学担当、など各分野の専門家とチームを構成し、トレーニングを重ねます。このことは、「チームQ」(高橋尚子選手)や「北島康介プロジェクト」などで広く知られるようになりました。 どちらの場合も、強いチームを作るには良いチームワークが必要です。チームのメンバーが勝手気ままに振舞っていたのでは、チームとして良い結果は得られません。

製品開発の現場に目を向けますと、現代の製品開発はほぼ例外なくチームで行われています。従って、製品開発においてもチームワークの良さが求められます。 では、良いチームワークを得るためには何が必要でしょうか?

チームビルディングに関する書籍などでは、明確な目標設定や役割分担、強いリーダーシップ等、いくつかの"テクニック"が挙げられています。たしかに、メンバーの掲げている目標がてんでばらばら、相手に期待する役割と当人の認識がまるでかみ合っていない、というチームから、良い結果は期待できそうにありません。 やはり、メンバーが共感できるような目標設定や役割定義を行うことは、良いチームワークを得るために必要な方策のようです。

しかし、ここで留意しなければならないことは「人に個性があるのと同様にチームにも個性がある」(脚注)という点です。チームのあるべき姿やチームワークの強化策は、チームの個性に依存します。

筆者がコンサルティングの現場で経験した事例をご紹介します。ある自動車部品サプライヤでは、1つの製品を開発するチームは2~3名と少人数である一方、同時に数多くの製品開発プロジェクトが動いていました。 納入先の自動車メーカーも多岐にわたっていました。それぞれのチームは少人数ゆえ緊密なコミュニケーションが図られ互いの役割分担も明確でしたが、互いのチーム間では動き方がばらばらで、その結果、納入した製品には多くの品質問題が発生していました。これらの"チームの個性"、そしてすべてのチームに共通する問題点であったのは、チームごとに仕事の進め方が異なるのは仕方がない、という風潮でした。 そこで私たちが取った対策は、その風潮を改め、会社として製品品質を保証するための開発プロセスを再定義し、それを徹底することでした。その結果、緊密なコミュニケーションという元来の強みに加えて品質目標達成に向けた動きが重なり、製品品質の向上に寄与することができました。

また、大規模な産業装置の開発プロジェクトの事例もあります。装置の規模が大きくなるにつれ開発チームも巨大になりましたが、逆に技術の高度化に伴って技術者の担当範囲は専門分野に特化・細分化されていきました。 その結果、開発の"たこつぼ化"(技術者が担当分野に閉じこもり他分野との連携を取らなくなること)が起こり、全体として足並みの揃わない製品開発が行われ、納期の遅延を引き起こしていました。この時に取った対策は、異なる専門分野のメンバーを一同に集めての問題解決ワークショップでした。 隣の芝生は青いかどうか見ようとさえしていなかったチームメンバーが、達成すべき共通の目標や互いの抱える問題点を共有し、それが"チームで考える"製品開発の実現につながり、短納期化を達成することができました。

大切なことは、チームの個性を見極めて、それに応じたチームワーク向上の方策を考えるということです。 チームの目標設定や役割分担という視点は、その方策を考える上での枠組みとしては有効です。しかし、目標をどこまで具体的に表現すべきか、役割をどこまで詳細に定義すべきか、それらをどのように伝えるべきか、といったことは、チームの個性に依存します。そして個人と同じようにチームの個性も移り変わります。良いチームワークを得るためには、その時々のチームの個性を見極めたチーム運営を心がけることが肝要です。

チームの「共創力」を高めたい方は下記、「技術者力強化(ARMS)」のページもあわせてご覧下さい。

(注)参考文献:「稼ぐチームのレシピ」キャメルヤマモト著、日本経済新聞社発行、2004年

執筆:水上 博之
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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