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製品開発力強化に直結する組み込みソフトウェア部門改革のポイント

 昨年12月にソニーのハワード・ストリンガー会長の会見が行われ、業績見通しが報告された。同社は営業利益率5%の目標達成に向けて着実な進展を遂げているそうである。この会見上、製品開発力を強化する上で非常に重要な点が述べられていた。このような会見で開発力に関する話題が取り上げられることは非常に珍しいので、ここで改めてとりあげ、この発表から読み取れる「組み込みソフトウェア部門改革成功のポイント」について考えてみたい。

 第1のポイントは「ソフトウェアアーキテクトが確固たる地位をもつようになった」点である。ちなみに、ソフトウェアアーキテクトとはソフトウェア製品のあるべき姿を考え、ソフトウェアの構造設計を行う人である。
 多くの企業では、ソフトウェア担当者はハードウェア部門からの要求を受けて最適なソフトウェアを設計・実装し、評価する立場にいる。その結果、製品ごとに個別最適なソフトウェアが作られやすい。それを「新製品の設計、開発といった全体プロセスの初期段階から参画」し、製品全体の仕様策定をソフトウェアの視点から行うような立場に変えたのである。
 「多くの製品が、シームレスにつながるような提案ができるようになる」ためには、ソフトウェア担当者が製品企画や製品群の計画においても中心的な役割を担うようになることが必要になるが、それは全体最適を考えたエンジニアの役割分担と組織体制を決めなければ達成できないことである。このことから社の方針として製品開発プロセス全体におけるソフトウェア担当者の役割を戦略的に決めたことがうかがえる。

 第2のポイントは「ソフトウェアエンジニアの努力」により、製品同士をシームレスにつなぐために必要な能力が大幅に向上された点である。ソフトウェア担当者が重要な役割を任されてもそれを実現する能力が備わっていなければ改革は成功しない。改革活動を製品開発の成果に結びつけるためには、ソフトウェア工学に基づいた開発プロセスの遵守力と制御工学に基づいた技術力を事前に底上げしておくことが重要になる。
 今でこそ組み込みソフトウェアは製品を左右する重要な要素として注目され、組織的な業務プロセスに則り開発が進められている。しかしつい最近まで、まるで芸術作品を創り出す工房の様に個人に依存して仕事を進めていた会社も多いと聞いている。そのような場合、複数製品群にまたがるような大規模開発に慣れていないため、組織能力を底上げする必要がある。ソニーの場合、10年以上前からソフトウェア開発部門の能力向上に投資を行い、改革に取り組んでいたことを個人的に見聞きしている。

 そして最後のポイントは、経営者自らがソフトウェア開発力の強化の必要性を感じ、情報発信をしている点である。社運をかける改革活動である以上、経営者の積極的な参画等、改革を成功に導くための諸要素がポイントになるのは言うまでもない。

 ITIDはメカ・エレキ・ソフトを包含した開発力の向上を支援している。当社が2007年に実施した開発力調査ではソフトウェア開発部門の開発力が製品全体の開発力を大きく左右するという結果が出ており、ソフトウェア部門の改革が急務の課題となっている組織が多く見受けられた(※)。多くの製品開発組織において前述のポイントを押さえたソフトウェア部門の改革が行われ、ハードウェア部門とソフトウェア部門とが協調してよりよい成果を生み出す体制になれることを願っている。
 (※開発力強化詳細は別途、Webで掲載予定である。)

 <引用文献>
 1.大河原克行 ソニー、ストリンガー会長が会見。「BDこそが最高」-「クリエイティブ分野に投資する時期に」 http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20071211/sony.htm

 ソフトウェアエンジニアが、新製品の設計、開発といった全体プロセスの初期段階から参画する体制が整った。また、すべての製品グループのなかで、ソフトウェアアーテキクトが確固たる地位を持つようになった。多くの製品が、シームレスにつながるような提案ができるようになったのもソフトウェアエンジニアの努力によるところが大きい。

執筆:前田 直毅
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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