多事想論articles

はじめの一歩

"何か新しいことを始めてはみたが、長続きしなかった・・・"
私も含めて多くの方が経験していることではないでしょうか? 自分が努力していることに対して、なかなか効果が現れないとモチベーションが落ちてしまい、努力そのものをやめてしまう典型的なパターンです。

私たちがお客様と共に改革活動を推進する際、「活動の初期段階で短期間に成功事例を作る」ことが重要なポイントとして挙げられます。 小さな範囲でもよいので早めに成功事例を作り、その成功事例をクチコミのように広げて改革活動を進めていくことが開発力向上を実現させるためには重要なのです。

多くのお客様の改革活動を支援してきた経験から申し上げると、開発力向上のために改革に取り組まれるお客様、特に実際の設計業務を行う設計者の大部分は"改革の必要性"については理解、共感されていますが、改革の結果生まれる新しい仕事のやり方を受け入れることに抵抗を感じています。 なぜ、目的(=開発力向上)は理解できるのに、手段(=新しい仕事のやり方)には積極的に取り組むことが出来ないのでしょうか?

この現象の大きな要因のひとつとして、新しい仕事のやり方の効果やその導入のための負荷が不明確であることがあります。 新しい仕事のやり方を導入する際にはその効果や導入負荷を理解いただけるよう、出来るだけ多くの具体的な事例を用いて説明を行っています。 しかし、製品開発という生き物のような創造的業務において、全て同じ効果が得られることを確約したり、導入負荷は××人月だと明確に定義したりすることは容易ではありませんし、その難しさを設計者も理解されています。 そのため、自分の業務ではどれほどの効果があるのだろう?どれだけの導入負荷が発生するのだろう?というネガティブな方向に感情が向いてしまい、新しい仕事のやり方を実践することに躊躇してしまうのです。 特に、今までにもいろいろな改革を行い、失敗してしまった経験がある場合にはなおさら懐疑的になってしまうでしょう。 このような状況を打破し、改革を成功に導くために『自分たちの業務で成功体験を得る』ことが重要なのです。

ではどのようにして最初の成功事例をつくるのが良いのでしょうか?
ポイントは二つあります。

一つめのポイントは適切なメンバーを選ぶことです。
当たり前のことですが、最初の事例は絶対に成功させなければいけません。 そのためにはエース級のメンバーを選出することが必要です。 ただし、ここで一つ工夫をする必要があります。 それはエース級のみでメンバーを構成しないことです。実績のあるメンバーだけで構成したチームが成功事例を創出しても、共感は得られない可能性が高いからです。 そこでチームメンバーにはエース級に加えて若手も選出することをお薦めします。 その若手を選ぶ際には「新しいことに対して積極的に取り組むことが出来ること」が重要な基準です。 「積極的に新しいことに取り組むことが出来る若手」と「実績のあるエース級のメンバー」が成果を出すことでメンバー以外の設計者に対して効果をアピールし易くなります。 エース級の人材を改革活動に従事させることで、設計現場では混乱が起きることもあるでしょう。 それらの混乱を解消させるのはマネジメント層の仕事になります。 改革活動で発生する弊害に対してマネジメント層が積極的にバックアップをすることで活動に対する組織の意気込みが醸成されていくのです。

二つめのポイントは適切なテーマ(製品)を選ぶことです。
新規性が極端に高い製品やいつも多くの問題が発生している製品を選ぶことは危険です。 最初から大きな成果を求め、難易度の高い製品を選んでしまうと改革活動全体を停滞させる危険性があるのです。 しかしながら、完全な流用設計の製品を選んでも新しい仕事やり方の効果を把握することは難しいでしょう。 "少しの新規性はあるが、開発経験が十分でリスクを把握し易い製品""開発難易度が中の上である製品"を最初のテーマとして選ぶことをお勧めします。

開発力向上は一朝一夕で成し得るものでありませんし、その道のりは平坦なものでもありません。

『千里の道も一歩から』
二歩目、三歩目につなげるためにも、良い一歩目を踏み出すことが重要だと日々のコンサルティング活動の中で感じています。

執筆:榎本 将則
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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