振り返りの勧め
子育ての環境にしわ寄せがきているのか、児童虐待のニュースが後を絶ちません。2009年度に児童相談所で対応した児童虐待の件数は4万4210件で、過去最悪を更新したそうです。つい先日もワンルームマンションで幼い姉弟2人が母親に家に閉じ込められ、遺体で見つかった事件がありました。児童相談所は、近隣住民から虐待を疑う通報を3回も受けていながら事件を防ぐことができませんでした。事件発生後、全国から数百件の抗議の電話やメールが殺到したそうです。
公務員の不正経理問題のニュースも無くなりません。取引業者と結託して行われる不正経理は、裏金づくりにつながる行為であり、行政に対する不信感を引き起こしています。先日の7月13日、総務省は農林水産省など12省庁が所管する平成18~20年度の予算や補助金のうち、計20億5800万円が不正経理に該当していたと発表しました。うち57%は補助金を使った自治体による不正経理だったそうです。不正経理の主な手口は、年度内に予算を使い切るために架空発注し業者の口座に代金をプールする、いわゆる「預け金」という方法です。
ここに挙げた二つの事例は全く関連がありませんが、実は共通点があります。それは、どちらの場合も初めての事件ではなかったということです。一回目の事件が起きた後、適切に対処すれば再発を十分に防げた事象でしょう。事件が繰り返された要因は、当事者意識をもって自分事として振り返りが行われていなかったためと考えています。
さて、皆様の組織ではいかがでしょうか。製品開発プロジェクトの主要な節目や終了時に振り返りを行っていますか?
私の経験から言うと、振り返りを行っていない組織がとても多いようです。振り返りを行っていない方々に理由を伺うと、「次のプロジェクトが始まっているので、忙しくて時間が取れない」等の声が返ってきます。スピードを優先するがために振り返りがしっかり行われず、不具合を再発させたり、作業効率化のためのプロセス改善の機会を失ったりしているようです。そして結局は、手戻りや無駄な作業が発生して思うようなスピードがでないという結果を招いています。スピードが優先される今だからこそ、プロジェクト終了時など業務の節目に、ひとりひとりが立ち止まって振り返りをしっかり行うことが大切だと改めて感じます。
執筆:桑野 茂
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。