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恐竜の絶滅と事実検証

 皆さんは恐竜が栄えた時代をご存じですか?恐竜は、およそ2億3千万年前の三畳紀半ばに登場し、1億5千万年以上もの間繁栄していましたが、白亜紀の末に絶滅してしまいます。その時は恐竜だけでなく、地球上の生物のなんと90%が絶滅したと言われています。それほどの生物の絶滅を招いた原因はいったい何だったのでしょうか。地球の地殻大変動や火山の大噴火をはじめ諸説あったのですが、それらの説の裏付けとなる検証作業を地質学者や物理学者などの様々な分野が連携して行いました。その結果、今では10km程度の大きさの小惑星が地球へ衝突したという説が大方の研究者の間で支持されています。この説が支持される理由は、1991年にユカタン半島において白亜期末に形成されたと見られる大きなクレーター跡が発見されたからなのです。異なる分野で確認された事実や知見が繋がって、先代の研究者の仮説が検証されたわけです。古代の痕跡から点と点を繋ぎ、その時代の全体像を描き出すなんて、とても壮大で夢のある物語です。

 それに対して、古代の痕跡の点と点が繋ぎきれず、事実検証ができていないこともあります。邪馬台国の論争などはその典型例でしょう。邪馬台国がどこにあったのかについて、畿内説と九州説が有力ですが、いずれの説も仮説を立てて、古文書の記述に対して都合のいいように解釈したり、基本的事実についての認識を誤ったりしてしまう傾向があるようです。恐竜時代の遠い昔と比べるとついこの前の事象にもかかわらず、決定的な証拠が未だ見つかっていないのはとても残念です。

 遠い昔の事実検証は、限界があるのかもしれませんが、検証しようと思えばできるであろう事柄で、それを怠っていたようなことが見受けられる例があります。某自動車メーカの事故は、思い込みが災いして十分な検討を怠ってしまったために社会問題にまで発展しました。隠蔽工作の印象が強いかもしれませんが、実は、最初の事故が発生した時点での原因分析が結論ありきでつじつまがあう事象だけを拾い出し、全く誤った判断をしてしまったために起きた事件でした。結果として、問題を再発させ被害を拡大させてしまう事態を招きました。

 これらの事例が示すように、何か問題解決を図る時には、思い込みが紛れ込んでいないか、都合のいいように解釈していないか、多様な視点で事実検証を行っているか、これまでに明らかになっている事実が矛盾無く繋がりをもって説明できるかなどを常に確認しながら取り組むべきでしょう。

 ちなみに、地球が誕生して46億年が経過していると言われています。地球誕生から現代までを1年に例えると、恐竜が誕生したのは12月13日、人類(ホモ・サピエンス)が誕生したのは、なんと大晦日の午後11時37分頃になります。邪馬台国の誕生に至っては1年が終わる12秒前です。人類の歴史はなんとも短いものですね。

執筆:桑野 茂
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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