多事想論articles

感情と上手く付き合う為に

■感情が引き起こす失敗

 趣味でテニスをしているのですが、たまに試合に出ると、驚くほど練習の成果を出せなくなってしまい自分でびっくりすることがあります。 脚は重く、腕はぎこちなくなってしまい、練習で簡単にできていたことがやけに複雑に感じ、上手くできなくなってしまいます。 後から振り返ってみると、上手く出来なかった多くのポイントで「理性より感情が先行してしまっていた」と気付きました。 不安が体を縮こまらせ、熱くなる気持が無茶なショットを誘発してしまうのです。 ビジネスの世界でもこのような場面は多く見られ、平静な状態では頭脳明晰で安定感のある人が、レビュー会や報告会で驚くほど取り乱してしまい、冷静に考えれば決してしないような発言や行動をしてしまいます。
 テニスとビジネスは全く同じ土俵ではありませんが、どちらも「真剣で緊張感が高く感情的になりやすい場面の連続」という点では似ており、私達にはこのような状況下で、素早く最適な発言・行動を選択することが求められます。

■人間の行動決定メカニズム

 私達は様々な状況下で、どのように自分の発言や行動を選択しているのでしょうか?
 人間の発言や行動を「人間からの出力」と考え、その決定メカニズムをInput-Process-Outputのフレームワークで捉えてみると、Inputは自分の目や耳から入ってくる情報やその場の雰囲気、Processは脳内での情報処理、Outputはその結果出力される行動や発言、と表現することができます。

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 Outputをコントロールするためには、Input又はProcessをコントロールしなければなりませんが、Inputは自分を取り巻く環境、状況に大きく依存するため、直接コントロールすることは難しいと思われます。 一方Processは、自分が物事を考える際の「思考力、スキル」であり、日々の学習や訓練でコントロールすることが可能です。 実際、多くの企業がロジカルシンキングやコミュニケーションスキルといった、様々な思考力強化の教育に力を入れ、個人の能力向上を狙っています。
 しかしながら、多くの人が日々努力してそのような能力を鍛えているにもかかわらず、先述のような「真剣で緊張感の高い場面」では、うまく能力を発揮できず失敗してしまうということが多々あります。ここに「感情」という内乱が関与しているのです。

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■不要な感情を抑制する

 感情を考える上では、まず「感情は、どこかから不意にやってくる外乱のようなものではなく、あくまでもInputに対して自分の体が作り出しているもの。 そして自分の体の中のことなのだから、必ず自分でコントロールできる」という認識を持つことが大切です。Inputに対して「不安、焦り、怒り」といった冷静さを乱す感情を発生させないようにすることは可能ですし、それができれば、鍛え身につけた「思考力・スキル」を存分に発揮し、その場に有った最適な発言・行動を導き出すことができるはずです。
 私が、不要な感情発生を抑制する為に心掛けていることが2つあります。1つは「Inputを認め、どんなことでもポジティブに受け入れようとする姿勢」です。例えば、自分の発言が否定された場合でも、その指摘が自分の不十分な点を鋭く突いたことを認め、しばし第三者の立場に立ち素晴らしい指摘を賞賛します。 そしてその指摘により更に向上できる自分を幸せだと思うようにします。こうすることで、バランスと平常心を保ち、冷静な頭で対応することができます。2つ目は「そもそも自分にとって想定外なことは沢山起きるんだ」という心構えです。Inputが想定外であればある程、感情は大きく揺さぶられます。常日頃から、想定外のことは起きて当たり前という準備ができていれば、非常事態でも平常心を保ち対応できる幅が広がるのではないでしょうか。

■自分の感情状態に客観的に気づける仕組み

 上記のような心掛け、準備をしていても、つい理性より感情が先行してしまうことはあるものです。そういう場面では、如何に早く平常心を取り戻せるかがキーとなってくるのですが、熱くなった頭では「平常心に戻らねば」という考えにすら至れないことも多いのではないでしょうか。 このような状況に陥ることも想定し、自分の感情状態に客観的に気付ける仕組みを用意しておくことは有効です。目に入るところに「平常心に戻る」という思考を取り戻すきっかけとなるものを用意しておくのです。 例えばいつも使っているボールペンを「平常心を取り戻すきっかけ」として自分の中で決めておけば、それが目に入った段階で「平常心に戻り冷静な頭に切り替える」という思考に至るきっかけを得ることができます。
 一時期私は、打合せの度に熱くなり攻撃的な発言をしてしまい、後で自己嫌悪に陥ることが多くありました。何とかしたいと思い考えたのが、打合せ時のノートに「ネガティブカウンター」という箱を書き、そこに自分の攻撃的な発言の回数を正の字でカウントをしていくという取り組みです。 最初は熱くなった頭で、箱の中に正の字を書くという思考にすら至れなかったのですが、続けていくうちにノートの箱が目に入るだけで「攻撃的な発言はしない」という思考をサポートしてくれました。

■最後に

 人は誰もが豊かな感情を持っており、私はそれこそが人間の魅力の本質だと思っています。しかし、時に強すぎる「不安、焦り、怒り」といった感情が自分の頭や心を乱してしまい、残念な結果をもたらす原因となってしまいます。
 これまで、感情と上手く付き合うことの大切さと、そのための取り組みについて述べてきましたが、十分に意識していても、それでも失敗してしまうということがあると思います。私はそのような時、その状況と自分の反省すべき点を快く認め受け入れた上で、そして「長くやっていればこんなこともあるさ」とつぶやき、冷静に前向きな気持ちで次に進むようにしています。大切なことは、変えられない過去というInputに対してネガティブな感情を発生させ、ひきずってしまわないこと。そして、頭を冷静に保ち、変えられる未来に全力集中することではないでしょうか。

 

執筆:松田 有記
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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