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分業によるズレと偏り

 現在の製品開発において、メカ開発・制御開発・ソフト開発など開発体制の分業は当たり前のこととなっている。分業により、各役割における開発担当者の業務遂行能力を高め、効率的に成果を達成することができる。分業にはこのようなメリットが多数あるが、「分業したことによる生じるズレ・偏り」によって引き起こされるデメリットも存在する。
 分業のデメリットを克服しつつ、メリットを享受するにはどうすれば良いか?ありがちな「分業によるズレ・偏り」とその対策方法をご紹介したい。

(1)意思決定シナリオのズレ
 開発を推進していくためには、開発する過程で得られた情報を元に意思決定を積み重ねていく必要がある。分業を行っている開発体制において、意思決定の内容やそれに必要な情報にズレが生じていると判断の遅れを招く。
 例をあげると、ある担当者はあれもこれも有益で重要な情報に見え、大量の情報を集めるが結論に至らない。優秀な担当者ほど新しい知見を得ることに興奮を覚える傾向が強く、迷宮に入り込む。また、ある担当者は目の前で発生している問題の対策に傾注してしまい、最低限必要な情報が揃わない。若手の担当者にその傾向が強く、経験不足から視野を広げるのが難しい。
 上記のようなズレを解消するためには、意思決定の内容やそれに必要な情報を、各自の頭の中にあるのではなく明文化して共有する必要があるのは言うまでもないが、開発リーダは、担当者の特性や活動状況と照らし合わせて、都度、牽引や補正を行うように心がける必要がある。

(2)思考の偏り
 分業した各分野の専門家は、その分野において様々な経験を所有する。数多くの成功や失敗、それらの経験から得られた知識から、その分野における素早い判断を下すことができる半面、経験という古い知識が新たに思考を広げていくことを邪魔してしまう一面もある。
 例えば、設計案の検討のシーンであがったアイデアを「以前検討し不成立」との理由で内容を十分確認しないまま否定しまう。実は以前とは前提や使用条件が異なり、非常に効果の高い可能性のある設計案を見過す。他の例では、各分野の専門家にとって当たり前となっている事柄については、特出して議論しないため、他と組み合わせて使用した場合の問題発見が遅れる。これらは思考が偏り、バランスが崩れた状態といえる。
 思考の偏りを取り除くには、互いの専門分野を理解し、意見を言い合える環境を整えることが必要になる。上記例のように自身の専門分野に対しては保守的でも、他分野に関しては比較的気軽に意見が言える場合が多い。対象としている製品全体の企画や技術をMECE(モレなくダブりなく)の考え方で整理した「骨格」を準備するとともに、開発リーダが中立的な立場で意見を引き出すようにすることで、意見を言い合える環境を作る。

 分業によるズレや偏りはどうしても出てきてしまうもの。ズレや偏りが発生してしまう人の性質を理解し、対策を打つことで、共に高め合い真価を発揮できる開発チームを目指してほしい。

執筆:大作 孝男
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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