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エース級の設計開発者を最前線に!

 工場で使われる産業装置のような技術レベルの高い製品では、「顧客との連携を強化すること」が製品開発力の強化と同じぐらい重要である。なぜなら、製品開発にかかるコストや期間が膨大であるため、事前に顧客と相談しながら将来の技術開発や製品開発の方向性を決めていく必要があるからだ。このような産業装置業界では、顧客の技術要求に合わない製品開発を進めていたため、大きく競争力を落とした企業も実在する。

 「顧客との連携を強化すること」は一朝一夕で対応できることではなく、今行っている顧客対応の品質を向上させ、なおかつそれを継続的に実施していかなければならない。顧客が求めていることや困ったことに速やかに対応して信頼を積み上げていくことが必要である。

 では、具体的にどうすれば良いだろうか?

 その答えの一つとして紹介したいのが「エース級の設計開発者を顧客現場へ出すこと」である。装置全体のシステムを理解しているエース級の設計開発者を、顧客を直接サポートする部署へ異動させるのだ。それを行うことで顧客の信頼を積み上げ、「顧客との連携を強化すること」が可能になる。以下に事例をまじえながら、その有効性について説明する。

起きたトラブルに速やかに対処する
 エース級の設計開発者がいない顧客現場での話である。現場で原因不明のトラブルが発生。そのトラブル分析を行うためには、電気パーツの信号波形を特定の条件で取得する必要があった。しかし、市場サポートのメンバーではそのようなデータを普段取得する機会が無いため、電話で指示を受けても作業方法が理解できない。そのため設計開発者が具体的なマニュアルを作成し、なおかつ電話で詳細に説明するということを行った。 その結果、データを無事に取得するまでに1日の時間のロスが発生。この後もデータ分析やトラブル対策の実行など、その都度、設計開発部門とのやり取りが発生し、トラブルを解決するまでに1週間程度の時間を要した。トラブル対策で装置の運転を止めている間、顧客側は1日あたり数千万円の売上を損失してしまう。このため、顧客の信頼を大きく失うという結果になってしまった。 エース級の設計開発者が顧客現場にいれば、現場だけで対応できる作業も多いため、今回のようなトラブルも半分程度の時間で対処することが可能だったろう。

顧客要望に速やかに対応する
 次は、エース級の設計開発者が派遣されている現場での例である。打合せの中で、顧客が3年後に今の製品よりもスペックの高い製品を新規工場で量産したいと考えており、他社も含めて装置購入の選定をしているとの情報を知った。それを聞いたエース級の設計開発者は、現在稼動している装置にハードとソフトの変更を行うことで顧客が3年後に必要としているスペックを達成できる可能性があることに気づき、すぐに設計開発部門へ装置改造の設計を進めるよう検討依頼を出した。 その1年後には、顧客と一緒に行った試作評価で顧客が求めているスペックの製品を無事に実現することができ、顧客の信頼を大きく得ることができた。もちろん、その後の新規工場での商談も有利に進めることができたのは言うまでもない。

 ここまで「顧客との連携を強化する」ために、エース級の設計開発者を顧客現場に出したときの効果について述べてきたが、一方の設計現場では、エース級の設計開発者を手放すことによる設計品質の低下が心配されるかもしれない。それを解決する手段の一つが「技術の見える化」である。エース級の設計開発者の思考回路を「見える化」し、共有することで設計品質の低下を防ぐことが可能である。我々も多くの企業で「技術の見える化」の導入を行っており実際に効果を出している。

 顧客対応は、「技術の見える化」で共有される設計の肝に加えて、高いヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルが必要になる。それらの能力を持つエース級の設計開発者を顧客現場に出すことで、競争力を高めていくことを真剣に考える必要があるのではないか。

執筆:大木 俊和
※コラムは執筆者の個人的見解であり、iTiDコンサルティングの公式見解を示すものではありません。

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