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かわいい技術者には旅をさせよ

 このコラムを読んでいるみなさまの中には「昔は、立ち上げやトラブル対応で客先 によく行かされて大変だったなあ」と思っている方も多いのではないでしょうか?客先は技術者にとって昔も今も重要な現場のひとつであり、技術者のセンスや能力を高める場所であることに変わりはありません。

 ところが、製品の成熟度が高まり設計品質が向上してくると客先でのトラブルは減り、客先に駆り出される機会も減ってきます。 その結果、顧客の顔が見えづらくなるだけでなく、顧客の生の声も聞こえなくなってしまいます。品質を高める活動が、顧客との接点を持つ機会を奪っているとは皮肉なことです。
さらに、グローバル化が進むある業界では、海外の顧客が急増する一方で、国内の顧客が減少し、国内に業界をリードする企業がいなくなる事態も進んでいます。そのため、積極的に海外に足を運ばないと顧客の声が入らないのだそうです。
では、顧客の声を聞くにはどうすればよいのでしょうか?どうすれば技術者は顧客と接点を持てるようになるのでしょうか?

 若手の提案を待つ組織もありますが、実際に自ら動ける人材はそうはいません。なぜならば、目先の業務に追われてしまっているからです。そうであればマネジメントから仕掛けをする必要があります。 例えば、営業やサービスマンと同行する機会を若手の技術者にも増やすのです。会社によってはもっぱら開発部の管理職以上が営業に同行するようですが、もっと若手に機会を与えてもよいのではないでしょうか。
海外の顧客の場合も、現地の営業に任せるのではなく、若手の技術者が自ら直接足を運んで顧客の声を聞いてみるのです。

 ただ、若手の技術者も準備を怠ってはなりません。目先の業務に追われていると、ものづくりの原点である顧客からのインプットを営業に頼りがちになります。 そうすると、顧客の声をくみ取るセンサーの感度が鈍くなってしまいます。そうならないためには、日頃から語学力をはじめ、コミュニケーション能力を高めておかなければなりません。言葉の壁を越えて海外技術者と渡り合う覚悟も必要です。

 私は、若手の技術者が顧客と接点を持つことに期待しています。 なぜならば、技術者が訪問すると顧客の反応が違うということを肌で感じてほしいからです。特に日本から技術者が来ると海外の顧客も喜んで、営業のみの訪問とは違った情報が得られることもあるでしょう。技術者自身も顧客の生の声を聞くことで、これまで以上に魂を込めて製品開発に取り組むことができるでしょう。

 機会を与えれば人が育つ訳ではありませんが、備えを持った人材にこそ機会を与えることで、その人材は大きな飛躍を得ることができ、組織の屋台骨として活躍するようになるものです。それがさらに組織の活性化にもつながります。
5年後、10年後の人材がどうなっているかは、現在マネジメントを行っている方々にかかっています。人が育たないと愚痴を言う前に、目先のことだけにとらわれず、やれることからやってみませんか?

執筆:桑野茂
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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