多事想論articles

新しい仕組みを定着させるには

私たちが訪問する設計開発部門では、製品開発業務のほかに日常的にQC活動に代表される業務改善活動に取り組まれています。早くから設計開発業務の効率化に貢献する活動がある一方で、導入してみたものの目立った効果が出ないまま、お蔵入りになっている活動も非常に多いようです。

いずれの活動も既存の仕組みと異なる新しい仕組みを開発業務に導入するという点では同じはずです。しかも、どの活動も関係者の動機付けを図り、活動に伴う一時的な負荷を軽減したりすることで、新しい仕組みにスムーズ(最短期間かつ最小工数で)に移行できるように念入りに準備しています。にもかかわらず、このように効果や定着の度合いに差が出るのはなぜでしょうか?

私は、その違いは改善活動を定着させるために一番重要な課題を認識し、そこまで踏み込んで活動しているか否かによるものだと考えています。その課題とは、プロセスやインフラに関するものではなく、人の固定観念を変えさせることです。

ここからは、以前私が経験した「三次元設計プロセス構築活動」を例にとって、活動の妨げとなる固定観念とその固定観念を見つけるポイントを述べます。

コンピュータの進化に伴い、設計開発の現場ではドラフターから二次元CADに移行しました。慣れ親しんだ紙とペンからディスプレイとキーボード、マウスに変わり、戸惑いを覚えた方もおられるかと思いますが、三面図で設計する点や次工程へのアウトプットが図面である点など、設計の本質的なやり方は変わらなかったため、ツールの操作に慣れてしまえば、作業効率が大幅に改善されたのではないでしょうか。

その後、三次元CADが台頭し、フロントローディング開発や試作レス開発を目的に、多くの設計開発部門が、こぞって三次元設計に移行しようとしました。しかし、二次元CADのときとは違って、単に道具を置き換えればよいというわけにはいかず、これまでの設計のやり方や考え方、ルールそのものに影響するため、「三次元CADを使う気にならない」、「相変わらず二次元CADで設計している」などなど、二次元CADを使いこなし、ITツールに慣れている設計者もかなり苦労されていました。

この場合の固定観念は大きく二つあります。一つは、設計のアウトプットはあくまで図面であり、三次元モデルがあっても図面がないと開発プロセスが回らないという考え。そしてもう一つは、頭の中で製品をイメージし矛盾のない設計をしたうえで、最後にその結果を図面に落とすのがイケてる設計者であるという考えです。

前者の「図面を正」とする文化は、これまでの製造業の根幹をなすものであり、ある意味常識として関係者の体に染み付いています。そのため、いざ三次元化を推進しようとすると、「今のやり方が変わるのでやりたくない」とか、「今の規程に合わないから自分だけやっても仕方がない」といった抵抗感となってしまいます。この場合の対策としては、新たに三次元設計を前提にした開発プロセスを作り直し、そのプロセスを規定化して関係者全員が使わざるを得ない状況を作ることが有効です。

やっかいなのは、後者の固定観念です。こちらは、既存の仕組みに慣れた人ほど強く凝り固まってしまい、変えることなど思いもよらないばかりか、抵抗になっていることに気づいていないことが大半です。本人も気づいていないため、一概にこれといって有効な手段はないのが正直なところですが、三次元CADの操作教育から始め、三次元モデルとして形状を表現したものを使って簡易解析や干渉チェック、配線取り回しなど、具体的な部品でのケーススタディを繰り返し行うことで徐々に三次元での設計スタイルに変えていくことができました。

この種の固定観念は普段何気なく行っている業務の中に隠れているので、既存の仕組みの悪いところを見ていても見つかりません。自社や自部門で取り組んでいる新しい仕組みが今ひとつ定着できていないと感じている方は、実際の自分たちの業務手順を書き出して、「なぜ、その作業をやるのか?」、「なぜ、その順番でやるのか?」、「なにを、どこまで、どうやって」を細かく問いかけてみてください。業務毎にインプットとアウトプット、作業時の条件を洗い出していく過程のなかで、担当者の勝手な思い込みや必要以上なこだわりなど、どこかに自分たちが気づいていない定着にブレーキをかけている固定観念がきっと見つかるはずです。

 

執筆:森 隆
※コラムは執筆者の個人的見解であり、iTiDコンサルティングの公式見解を示すものではありません。

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