多事想論articles

エンジニアが子供たちのためにできること

ユニクロの柳井正会長が「年収100万円も仕方ない」と語ったインタビューが、最近話題を呼んでいます。低賃金である新興国の人材でも替えが効く仕事をしている日本人は、将来年収が下がっても仕方ないという主張です。年収100万円という刺激的な表現もあって賛否両論を巻き起こしているようですが、長期的に見れば雇用・賃金が国境を越えてフラット化していくことは確実に訪れる未来だと言えます。

では、そんな時代を現役世代として迎える今の子どもたちには、どんな暮らしが待っているのでしょうか。
もし子どもたちが、これまでの大人と同様に終身雇用に頼り、たとえ自分の市場価値向上に繋がらなくても給与さえ貰えれば良いという受身の姿勢でいては、海外のハングリーかつ優秀な人材に職を奪われるでしょう。まさしく柳井会長が言うように、誰にでも出来る低賃金の仕事にしか就けなくなります。
ですから子どもたちには、主体性を持って自分の頭で考え既存の枠を外しながら、自分自身で状況を打開していく力が今以上に必要になるのです。

そのような力を身につけるためには知識や能力、熱意といった要素も必要ですが、そもそもの起点として、まずは現状に対して無邪気で直感的な「なぜ?」という問いを立てることが大切なのではないでしょうか。
そう考えると本来子どもは「なぜ?」の天才ですから、そのまま素直に育ってくれれば良いように思えます。しかし現在の学校教育は、様々な取組みが行われているものの記憶力偏重から脱し切れておらず、子どもたちに「なぜ?」とオープンに問う隙を与えずに、その芽を摘んでしまっているように感じられます。「なぜ?」と問う機会をたくさん作ってあげることが必要なのです。

ではどうやって子どもたちに「なぜ?」と問う機会を作るかですが、それは身近な大人たちが、それぞれの得意分野や専門分野を活かして考えれば良いと思います。私の場合は自動車開発に携わっていた元モノづくりエンジニアですので、身近にあるモノを活用して子どもたちの「なぜ?」を育むことができないだろうか?と考えてみました。

日本にはモノが溢れており便利な生活ができる一方、子どもたちへの影響を考えるとハングリー精神が育たない、モノを大切にしなくなる、などの否定的な面が強調されがちです。
しかし、モノを先人の知恵に接触する機会であると捉えれば、子どもたちにとってモノは貴重な資源だと言えます。

例えば、モノの形には必ずエンジニアが知恵を絞った理由があり、モノづくりの原理原則が隠されています。
なぜ紙コップの縁は丸まっているのか?なぜ鉄道のレールはI型なのか?なぜ炭酸飲料のペットボトルは角柱型ではなく円筒型なのか?ユーザーにとっての機能や性能を高めるという理由もあれば、信頼・安全性、製造・流通等のコスト面、見た目の良さなどの理由も隠されています。

先日あるNPOの方々に機会をいただき、私自身短い時間でしたが小学校二年生に「紙コップの形の理由」について考えてもらう場を持ちました。
紙コップを実際に手に取ってもらい、「紙コップの縁はなぜ丸まっているの?」と問いかけると、子どもたちははじめ首を傾げていましたが、縁を切り取った紙コップを手渡すと「柔らかい!」と気づき、柔らかいと持ちづらい、飲みづらいといった回答が出てきました。また、「紙コップはなぜ上から下にすぼまった形をしているの?」という問いかけには、コンビニで売られている姿を思い出してごらんとヒントを与えると、「重ねられるから!」と答えてくれました(実は上記2つの形には他にも理由があります。皆さんも考えてみてください)。 

上記のように小学校二年生でも、きっかけさえ与えてあげれば身近なモノの形の理由について考え、自分なりの答えを導くことができます。さらに、「あらゆるモノの形には理由がある」という意識を持って日常生活を送れば「なぜ?」を考える機会が自然と増え、大人になっても状況を鵜呑みにせずに自分の頭で考える素地を育むことができるのではないでしょうか。
私はこれからも、このような機会を増やしていきたいと思います。皆さんもぜひ、身近にいる子どもたちに「なぜ?」を考えるきかっけを与えてあげて下さい。

執筆:松本 良太
※コラムは執筆者の個人的見解であり、iTiDコンサルティングの公式見解を示すものではありません。

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