多事想論articles

競争に打ち勝つ標準開発プロセスの"活用法"

 各社がこぞって取り組んできた標準開発プロセスの位置づけが、リーマンショック(2008年)を境に変化しつつあります。その変化の内容と筆者が考える変化への対応方法を記します。

●リーマンショック前のプロセス標準化の着眼点 =「手戻り防止」

 開発プロセスの標準化の主な狙いと言えば、以前は「手戻り防止」でした。やるべきことを抜け漏れなく洗い出し、手戻りの生じにくい検討順序を定義する取り組み(フロントローディング)や、開発途中にゲートを設ける事で問題を早期発見し、大きな手戻りを抑制するという取り組みが多くの企業で行われ、それらの一連の流れが標準開発プロセスとして定義されています。更には、小さな手戻りさえも抑制すべく、標準化の対象は部内・課内のプロセスのような詳細にまで及ぶようになりました。
以前は標準開発プロセスを守って、手戻りを抑制することが納期達成の近道だったのです。

●標準通りでは間に合わない

 ところが、ここ3,4年のコンサルティング案件では、その状況に大きな変化が生じています。標準開発プロセス通りに手戻り無くやり切っても目標納期に間に合わない開発プロジェクトが増えてきているのです。つまり、開発部門が理想としていた進め方(標準開発プロセス)では納期に間に合わないため、リスクをとって何かしらの工程を省くことが必要になってきています。100年に一度と言われるリーマンショックを経て、各企業が生き残り策を模索する中で製品開発にスピードが強く求められるようになった結果、標準を定義した当時には想定しにくかった「標準開発期間>目標開発期間」という状況が生まれてきているのです。

 標準として定義された工程を省くこと、つまり不具合をつぶしきれていないかもしれない製品をリリースしてしまうことに違和感を覚える方も多くいらっしゃると思います。筆者自身も、そのような製品のリリースは極力避けるべきであり、本来は「標準開発期間≦目標開発期間」となるような新たな開発手法の確立が先であるべきと考えています。
ただ、理想はそうだと分かっていても、それでは目の前の競争に勝ち残れないと考える企業が多いというのが筆者の実感です。そのような企業においては、製品が内包するリスクと得られる成果とのバランスをしっかり評価した上でリリースするのが当面の現実解であると言えます。

●標準開発プロセスを「守るべきルール」から「戦術発想ツール」へ

 これまで標準開発プロセスとは「守るべきルール」に準じるものでしたが、前述のような状況に置かれている企業は、その位置づけを積極的に変えていく必要があります。現状を直視せず、従来通り全てを「守れ、守れ」では、板挟みとなった開発担当者の個人的な判断(工程省略等)によって、見えないリスクを抱え込んだ製品をリリースすることになりかねません。(※もちろん企業のルールとして守らなければならない部分はあります。)

 筆者は、標準開発プロセスを「品質とスピードを両立させる開発戦術を導くツール」と位置づけて"活用"し、下記のようなシナリオで現状からの脱却を図ることをお勧めします。

(1) 直近の個々の開発では標準開発プロセスを元に、開発期間短縮の戦術を生み出して対応する
 ・標準開発プロセスを開発機種の技術・過去実績・人・設備等、様々な角度から分析して日程短縮のアイディアを発想し、短縮策
  を洗い出します。
 ・各短縮策の実行によって生じうる品質リスクやコストアップ等の背反を評価しながら、有識者が開発機種固有の状況を考慮した
  上で、採用する戦術を選定します。
 ・日程短縮の背反として懸念される品質リスクやコストアップを、組織として許容可能であることに合意した上で、開発を進めま
  す。

(2) (1)の戦術を蓄積し、他機種へ展開しながら当面の開発を乗り切る
 ・(1)の成果を集約し、状況に応じて引き出しやすいように分類しながら、有効な戦術を蓄積していきます。
 ・蓄積した戦術に関する学習会を開催し、戦術の選定方法や具体的な効果の見積もり手順、実行に至るまでに必要な社内手続き等
  の知見を共有します。
 ・機種計画の立案や変更の際に、戦術に関する有識者が同席することで他機種へも確実に展開します。


(3) 新たな開発手法を導入して「標準開発期間≦目標開発期間」となる新標準開発プロセスを作り上げる
 ・(1)(2)はあくまでも対症療法であるため、それと並行して新たな「守るべき」標準開発プロセスを構築します。
 ・(1)(2)で蓄積された開発期間短縮のアイディアの標準化と新たな開発手法の探索・導入を行い、新標準開発プロセスを作り込ん
  でいきます。

●まとめ

 標準開発プロセスは、環境の変化に応じて進化させていく必要がありますが、旧来のまま使い続けて競争の足かせになってしまっている企業が見受けられます。そういった状況からの脱却を図るために、上記のように標準開発プロセスの位置づけを「守るべきルール」から「戦術発想ツール」へと発展的に転換し、"活用"していくことをお勧めします。当面の個々の開発を、そこから生まれる局地的な戦術で乗り越えながら、それと並行して新たな戦略に基づく新標準開発プロセス(標準開発期間≦目標開発期間)を構築していくのです。
 当面の戦術を生み出すための分析や新たな標準開発プロセスの構築を迅速に行うには、コツやノウハウが必要です。お困りの際は是非ご相談ください。

執筆:蟹江 淳
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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