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形にこだわる ~1つのパラメータが製品価値を左右する~

携帯電話に垣間見る「こだわり」の喪失

皆さんはどのような携帯電話をお持ちでしょうか?私はつい最近まで6年前に買ったフィーチャーフォン、いわゆる「ガラケー」と呼ばれる携帯電話を使っていました。私が使っていたそれはとても薄くて軽く、見た目のデザインや質感も気に入っていたため、永らく愛用していました。

先日、その携帯電話が故障してしまい、この機会に機種変更をしようとカタログを見て驚きました。最新のフィーチャーフォン全機種において、6年前に私が買ったフィーチャーフォンよりもサイズが大きく、且つ、重くなっていたのです。通常の電子機器であれば時代と共にサイズが小さくなるか性能が向上していくのが一般的ですが、フィーチャーフォンはそれに反し、6年もの期間を経てむしろサイズが大きくなっている珍しい例です。

ここ数年でスマートフォンが普及するとともに、携帯端末に求められる機能や性能も変化してきています。フィーチャーフォンの人気が落ちていくのも時代の流れかもしれません。しかし、携帯性や電話のし易さの点では、スマートフォンよりもフィーチャーフォンに一日の長があると私は思います。もちろん、新しい機能を実現することはメーカーとして大事な使命ですが、機能だけではなく形にも価値があることを忘れてはいけません。

よく日本のメーカーは小型化が得意と言われますが、小型化だけでなくそれ以外の要求にもしっかり応えることで、こだわりの製品を開発してきました。そのこだわりが無くなってしまうのは非常にもったいないことだと思います。



優れた製品は形にこだわる

長く愛される製品には、必ず形状や質感に対する強いこだわりがあります。例えばiPhoneの場合、縦横の大きさは初号機から最新のものまでほとんど変化がありません。それは、従来の通話機能を維持しつつ、タッチパネルの操作性を追究した結果辿り着いた最適な大きさだからです。また、表面にはアルミ削り出しの部品を使うなど、見た目や手触りにもこだわりがあります。

携帯端末だけではありません。ノートPCで言えばThinkPadのキーボードもそうです。キーの大きさや配置に無駄が無く、キー表面の微妙なカーブが程よく指先にフィットし、キーを押した時のクリック感は心地良ささえ感じられます。その設計思想はIBMからLenovoに引き継がれた今でも変わっていません。

自動車でも形にこだわったものが少なくありません。例えばフォルクスワーゲンのゴルフはコンパクトでありながら広い車内空間と軽快な走行性能を実現し、40年近くもの間、その基本設計を維持し続けています。

いずれの例も、作り手が最善だと信じるサイズや形状にこだわり、その制約の中で製品価値を最大限に高める努力をしています。そのこだわりがユーザーに感動を与える製品を生み出し、やがてブランドイメージとして定着して長く愛される製品へと発展していくのだと思います。



なぜ「こだわり」が失われてしまうのか?

日本国内においてもかつては形状やサイズにこだわった製品が多くありましたが、最近は少なくなっているように思います。その要因として、ソフトウェア開発規模の増大によるハードウェア開発のリソース削減や、激しいコスト競争による部品コスト削減などが考えられます。しかし、それ自体は問題ではありません。重要なのは、ユーザーが求める機能やコストなどの要求を一面的に捉えるのではなく、それ以外の隠れた要求も踏まえて多面的に検討し、ユーザーが製品を使った時の満足度を最大限に引き出す最適な形状を考え抜くことです。

それではなぜ形に対するこだわりが失われてしまうのでしょうか?その理由として以下の二つがあると考えます。

(1)隠れた要求を正しく捉えられていない
例えば携帯電話の例で言うと、携帯性に関する要求を「カバンのポケットに収納できること」というレベルで捉えた場合と、「胸ポケットに収納しても目立たないこと」と捉えた場合とでは、薄さや重さに対する要求レベルが異なります。そのため、要求を正しく捉えられていないと、設計者が「最適」と思った形状でも、ユーザーからすると「ちょっと違う」設計になってしまいます。

(2)相反する要求の解消ができていない
また、仮に「胸ポケットに収納しても目立たないこと」という要件を正しく捉えられていたとしても、相反する要求である処理速度やカメラ性能を安易に落としてしまうと平凡な製品になってしまいます。あらゆる要求を高いレベルで満足できるよう、相反する要求を解消する設計を実現しなければ付加価値の高い製品にはなりません。



形にこだわるための製品開発方法

では、付加価値の高いこだわりの製品を開発するためにはどうすればよいでしょうか。

私は以下の三つのポイントが重要だと考えます。
(1)製品のユースケースを想定し、隠れた要求を具体化する
(2)形状に対する要求を実現するための背反を洗い出す
(3)背反を高いレベルで解消する設計を考える

 技術ばらしを活用すると、上記の考えるべきポイントが整理され、解決すべき技術課題も整理し易くなります。(下図参照)

拡大 図 技術ばらしと背反評価表を使った製品開発の例



製品開発に携わる皆様へ

ユーザーの要求に直結する形状パラメータは、たった1つでも製品価値を大きく左右する影響力を持っています。ソフトウェア開発やコスト削減も重要な技術課題の一つですが、一度モノの形状が持つ価値を見直してみてはいかがでしょうか。新たな開発の方向性が見つかるかもしれません。



執筆:竹森 恵一
※コラムは執筆者の個人的見解であり、iTiDコンサルティングの公式見解を示すものではありません。

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