多事想論articles

業務品質を守る

 2013年は食品表示偽装や鉄道会社のデータ改ざんなど、企業のモラルや品質について改めて考えさせられる一年でした。私は前職で品質管理を担当していたこともあり、ものづくりを行う製造現場で品質にまつわる問題に何度となく直面してきました。今回は、私が経験した事例をもとに、業務品質を守るための心がけを紹介します。

 数年前の話になりますが、私は光学デバイス製品の品質管理担当として、海外工場に長期出張しておりました。事業部には「一年以内に工程不良率を三パーセント以下にする」という目標が設定され、その目標を達成するために製造工程の品質改善を行うのが主な業務内容でした。その当時、私が担当していた機種の工程不良率は、量産立ち上げ直後に十数パーセント近くありました。しかし、その後、週を追う毎に業務改善の効果が出始め、事業部目標をほぼ計画通りに達成できる状況にありました。

 ところが、量産立ち上げから三ヶ月たったある日、たまたま修理工程に立ち会っていた私は、ある異変に気づきました。

 「償却部品がやけに多いな」。

 すぐさま製造ラインの責任者である製造リーダーを呼び出し、不良台数と部品償却数を改めて確認してみると、確かに工程不良率から想定される数の二倍以上もの部品が償却されていました。この時点の工程不良率は五パーセント以下まで下がっていたと報告を受けていたのですが、実はまだ量産立ち上げ直後の十パーセントからまったく変わっていなかったという事実が判明したのです。

 その後の調査で、工場には事業部目標よりさらに厳しい「工程不良率を一年以内に一パーセント以下にする」という目標が存在し、この目標の達成度が製造リーダーの人事評価につながっているため、あまりにも現実とかけ離れた高すぎる目標に製造リーダーが大きなプレッシャーを感じていたこと、また、不良台数の集計が現場の担当者だけで行われ、現場に近い海外工場の製造課長や製造部長もこのデータが正しいものだと信用して妥当性の確認を怠っていたこと、などの実態が明らかになりました。

1)良く見えるデータを疑う。
 改善活動を行う場合、目標として設定した数字の良し悪しを机上でチェックするだけだと本質が見えないことがあります。今回の事例では、工程不良率という最終目標の数字だけを見るのではなく、部品償却数という途中のプロセス指標を実際の現場で検証したことで、工程不良率の妥当性を改めて分析すべきということになりました。「三現主義」という言葉がありますが、不良品が作られる工程(現場)を見て、不良品そのもの(現物)を見て、不良品に起きている状況(現実)を見ることをしっかり実践すれば、より正しい判断に近づくことができるようになります。

2)データが改ざんできない環境を作る。
 今回の事例では、不良品の不具合箇所を修理したものを完成品としてカウントし、不良台数を実際より少ない数字にできてしまったことが原因で問題が発生しました。これまでの一連のプロセスを見直した結果、不良品を勝手に修理できないような仕組みを入れることが必要と考え、担当者が不良品を修理する場合は、必ず製品のバーコードをスキャンしないと修理できないシステムを構築しました。それ以降、ライン毎の不良台数を正しく把握できています。このように業務にまつわるデータは、作業のスイッチとなる業務を既存業務の中に組み込み、できる限り人に依存しない形で取得したり集計したりできるようにするのがポイントです。

3)最適な目標を設定する。
 どんな業務内容でも目標を立てることは必須です。しかし、その目標と現状との差は大きすぎても小さすぎてもいけません。特に、今回の事例のように目標との差が大きすぎると、頑張ればどうにか達成できるものとして受け入れることができず、関係者のモチベーションを維持するのが難しくなってしまい、様々な弊害が生じます。このような状況にならないためには、現状を正しく把握するための指標を作り、できるだけ具体的に数値化することが重要です。最初に数値データを見ることよって現状と目標との差分を正確に理解します。そのうえで、最終的なゴールに辿り着くまでに一ヶ月後の到達目標、一週間後の到達目標、といった具合に目標をブレイクダウンしていけば、達成できるかできないかギリギリのところを見極めながら最適な目標を設定することができるようになるはずです。

 今回は、私が経験した製造現場の中で発生したデータ改ざんの問題を取り上げて、業務品質を守るための三つの心がけを紹介しました。こういった問題は、なにも製造業務だけに限った話ではなく、設計開発業務全般において同じようなことが起きると考えます。たとえば、設計現場では設計の進み具合を「進捗率」という数字で管理している会社もあると思いますが、その場合はいかがでしょうか?数字を鵜呑みにしてしまったために、納期間際になってあとで痛い目に合ったなんてこともあるのではないでしょうか?
 ここで大事なのは、設計開発業務に携わる一人ひとりが「業務品質を守る」意識を持つことです。各自が「業務品質を守る」意識を持って、上記のような心がけを日々積み重ねて実践していけば、必ず企業の業務品質の問題がなくなる日が来ると信じています。

 

 

執筆:田口 和之
※コラムは執筆者の個人的見解であり、iTiDコンサルティングの公式見解を示すものではありません。

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