多事想論articles

結果を出す組織に求められるもの

 少し前のこととなってしまいますが、今年の六月に行われたサッカーの大会、FIFAワールドカップをご覧になりましたか?前回大会優勝のスペイン代表チームの予選敗退や今大会の優勝候補筆頭だった開催国ブラジルの歴史的な大敗など、とてもドラマティックな大会となりました。そんなサッカーを通じて、組織に必要とされるものについて考えてみましょう。
 サッカーは、チームスポーツです。チームの力が個の力の集合体という枠を超え、驚くべき結果を残すことがあります。その一例として、スペインの一部リーグ、リーガ・エスパニョーラで今年、スター選手を擁するFCバルセロナ、レアル・マドリードという二大クラブチームを抑え、アトレティコ・マドリードというクラブチームが優勝を手にしました。この優勝は、短期的な勝利ではなく、通年の優勝です。アトレティコ・マドリードは、先ほどの二大クラブチームほどのスター選手はいません。そんなチームがなぜ優勝できたのでしょうか。それは、チーム監督であるディエゴ・シメオネ氏の考えをメンバー全員が熟知したうえで試合に臨み、それぞれが状況に応じて自身で判断し闘い、チームワークを発揮し勝ち取った結果です。

 組織が結果を出すためには、組織のビジョンをはじめ、戦略や戦術、リーダーシップやチームワークなど必要とされるものはたくさんあります。その中で、私は組織のリーダーが組織を牽引するというリーダーシップも大切だと考えていますが、特にセルフ・リーダーシップが最も重要だと考えています。セルフ・リーダーシップとは、「個人が自らの方向をしっかりと定め、自らの意思の元に状況に対し正しい判断を行い、自ら主体的に行動すること」で、先ほどのアトレティコ・マドリードの「それぞれが状況に応じて自身で判断する」という行動が、これに該当します。

 私は前職で営業組織をマネージメントする立場にいましたが、チームワークを醸成し、各自がセルフ・リーダーシップを発揮できるようになった結果、同時期の売上で前年比約二倍の効果を得ることに成功しました。具体的に私が取り組んだことは、「情報共有会議(いわゆる『決定をしない会議』)の廃止」、「社内メールのやり取りの禁止」、「提出物却下理由のフィードバック禁止」の三つです。その意図は、「相手が考えていることや感じていることに気付くことが出来るようになる」、「仕事のアウトプットにどういう意味があるのかを考えさせる」、その結果「仕事(主にアウトプット)の質を向上させる」ということです。特に「提出物却下理由のフィードバック禁止」については、「どこがダメなのか」を提出者に考えさせることが主な意図ですが、これに付随して、却下した者にも、「なぜアウトプットを却下したか」を考えさせ、自分なりに解決案を出し実行する習慣をつけさせるという目的もありました。営業職ですから、顧客が商品を購入しなくなることもありますが、そのような状況になった時に、「何がいけなかったのか」を考え、自分なりに課題を出し、行動に移すようになって欲しいという想いがありました。
 しかし、これらの意図は当初、メンバーには全く理解してもらえず、業務指示した内容すら遂行されなくなるなど、業務に多大な支障をきたしました。メンバーにとっては、業務指示は出るがそのアウトプットについてはフィードバックがない、つまり「最初は言われたことをやっていたのに、途中から指示がなくなって、あとは自分で考えろと言われた」わけですから、当然でしょう。その後一ヶ月も経たないうちに、苛立ちや焦りなど様々な感情的要因により組織が機能しなくなりました。
 そのような状態となり、組織のマネージャーとしては耐え難いほどの苦痛を味わいました。しかし、自分たちの組織を新しく、強力な組織へと創り直すために、「私は組織をこうしたい、将来の組織はこうなっていたい」という思いを、飲み会や出社時、帰社時、昼食時など、ことあるごとにメンバーにぶつけ続けました。最初は壮大な夢から伝え、それが理解されなければ五年後の姿、三年後の姿と、少しずつ具体的なイメージへと変えながら、理解されるまで話し続け、伝えました。同時に、各メンバーの思いを聞き、私が理解できないところがあれば理解できるまで問いかけるということを続けました。私の考えをメンバーに伝え、しっかりと納得・理解してもらった上で、それぞれが考えを持って行動できるように意識付けをしていったのです。
 事態の収束には約三ヶ月かかりました。この期間は、本当に長く感じました。途中、何度も諦めてしまおうと思いましたが、その度に「ここで私が諦めては、組織がダメになるだけだ、部下が路頭に迷うことになる」と思い踏みとどまり、最後はほとんど意地だけでやりきった結果、少数は組織を去りましたが、残りは私の考えに賛同し理解してくれるようになりました。メンバー全員がそうなった後は、言葉では言い表せないくらいの固い結束が得られ、先述のような成果を得られるまでになったのです。最終的には私が指示を出すまでもなく、短納期でアウトプットを出してくるようになりました。その時のメンバーの「ほら、欲しいのはこれでしょ?」と言わんばかりのしたり顔は、今思い出しても笑え、そして嬉しいものです。荒療治でしたが、そこから得られたものは皆等しく、「やりきった、立て直した」という自信と、「私たちは一つの目標に向かって何をすべきか分かっているし、誰がどう動くかを踏まえ、自分がどう動くべきか分かっている」というメンバー間の信頼です。この「誰がどう動くかを踏まえ、自分がどう動くべきか分かっている」ということがすなわちセルフ・リーダーシップであり、そのアウトプットである行動は能動的であるが故に、結果としてチームワークが発揮された状態となります。

 あなたが組織のマネージャーであるとして、あなたの組織のメンバーは、セルフ・リーダーシップを発揮していますか?もし発揮できていない、メンバーがセルフ・リーダーシップを身につけていないと感じているのであれば、あなたから働きかけることは有効な手段です。今回示した例のように、最初にリーダーが「変革するぞ!」と意気込みを持ってリーダーシップを示し、リーダーの考えをメンバーに浸透させながら、メンバーに自ら考えさせるよう習慣付ける、すなわちリーダーシップの発揮元をリーダーから徐々にメンバーに移していくことで、セルフ・リーダーシップは培われると私は考えています。あなたが組織のメンバーであれば、セルフ・リーダーシップを身につける方法として、先述の例にあるように、自身で考えて行動できるようになることが重要です。そのためには例えば、リーダーの指示に対し、まずはその意図を汲み取りアウトプットの結果が何につながるのかを考えてみて、その上でリーダーに確認をするといったプロセスを身に付けることは有効でしょう。

 このコラムでは、組織に必要とされるものとして、セルフ・リーダーシップについて触れました。もちろん先述したように、チームをまとめるリーダーによるリーダーシップは重要です。しかし、それまで発揮できていたパフォーマンスがリーダーの交代により発揮できなくなるということはよくあることです。結果を出す組織に求められるものは、組織としてのビジョンを示すリーダーに加えて、セルフ・リーダーシップを持つメンバーの存在であると考えます。これがあれば、どんな難しい問題に対しても、良い結果を出すことが出来ると私は信じています。

執筆:江城 雅和
※コラムは執筆者の個人的見解であり、iTiDコンサルティングの公式見解を示すものではありません。

資料ダウンロードはこちら