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高いアンテナを持つ

 自分の領域(業務範囲や経験)以外の情報をたくさん持っていたり、アイデア豊富だったりする人を「あの人はアンテナが高いねぇ」と評することがあります。アンテナが高い人は豊富な情報・アイデアを利用し、うまく課題を解決できる方が多いと感じます。
例えば、担当している製品に発生したトラブルを全く担当外の他製品における事例を活用して解決するなどがよくある例です。
 設計開発に従事している方は日々課題を解決することを要求されます。解決の方法は課題によってさまざまですが、より多くのアイデアを持っているほうがコストや納期への影響を含めて総合的に良い解決策を選択することが出来ます。そこで、今回は高いアンテナを持つためのポイントについてお話します。

 高いアンテナを持つためには三つのポイントがあります。
 一つ目は多くの情報に触れることです。インターネットやテレビ、書籍・雑誌はもちろんのこと街中の変化や行き交う人の様子などからも得られる情報はあります。会社であれば他のプロジェクトの進捗状況や上司・同僚の振る舞いの変化なども情報のひとつと捉えられるのではないでしょうか。仕事に集中しているときには周りの様子に眼を配ることは難しいですが、休憩時などにアンテナ感度をあげて情報に触れるようにすることが必要になります。例えば同僚と雑談しているときに「そっちのプロジェクトは順調?」と情報を引き出すフレーズを使ってみてはいかがでしょうか。
 二つ目は自分の考え方や過去の経験に固執しないことです。人間の脳には情報を選択するフィルターがついています。脳は五感を通じて入ってくる情報を全て認識すると膨大なエネルギーを消費してしまうため、エネルギー消費を抑制するためにフィルター機能がついているのです。そのフィルターは本人が"重要"と思っていることのみを認識するように作られているため、重要ではないことや興味のないことはほとんど記憶に残らないそうです。例えば新しい車の購入を検討し始めたとき、街中で購入候補の車がやたらと目につくことはないですか?自分が購入候補にあげた途端に大人気になったわけではないですよね。購入を考えていなかったときには、今まで街中で走っていた車を脳が認識してなかっただけなのです。業務での課題解決において、このフィルターに「自分の考えは絶対あっている」「過去の経験上こうなるに決まっている」というキーワードがついていると、脳は新しいアイデアや情報を認識できません。自分の専門領域以外のアイデアや情報を得ようと考えるのであれば、これまでのフィルターから、新たなフィルターに取り替える必要があります。新たなフィルターは自分の知らないことを受け入れられるものにする必要があるため、これまでの考え方に固執することをやめることが重要なのです。工夫としては話を聞く際に「そのアイデアいいね!」と必ず肯定的な発言をすると決めて、脳に話を受け入れる準備をさせることもひとつの手です。
 三つ目は取り入れた情報の有効性を判断することです。情報が溢れかえっている現代社会において内容を正確に理解しないと活用できない情報が多く存在するのはご存知の通りです。会社における様々な情報にも背景情報の異なったものが多く存在します。課題解決に使えると思い、社内過去トラブル事例を参考に対応策を検討していると、解決すべき課題とは全く違う使用環境の事例であり、役に立たなかったということはよくあります。
 高いアンテナを持っている人は一度認識した情報をしっかり理解し、どんな背景情報があるのか、参考になる点と参考にならない点はどこなのか、根拠は何かを明確にしています。きちんと情報を整理し、効果的に活用することで課題解決に役立てているのです。日頃から情報の"自分に都合の良い"部分だけを鵜呑みにするのではなく、「本当か?」と興味を持って情報を確認する癖をつけると良いですね。

 これまで述べてきた高いアンテナを持つためのポイントを身に付けることは多大な努力を要するものではありません。少し自分の視界を広げ、少し多様な意見を取り入れるマインドを持ち、少し情報理解の取り組みを行うだけで効果が出ます。また、高いアンテナを持つ人の周りには同じく高いアンテナを持つ人が集まります。その相乗効果でよりアンテナが高くなるのです。
 冒頭にも申しましたとおり、設計開発に従事されている方は日々多くの課題を解決することを求められています。効率よく課題を解決できず、仕事がどんどんたまっている方も大勢いることでしょう。そんな状況から脱却するための第一歩として、少し努力して高いアンテナを手に入れ、課題解決のスピードアップを図ってみてはいかがでしょうか。

執筆:榎本 将則
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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