多事想論articles

接点を探す

 私は学生の頃からサッカーをしています。サッカーチームには基本的に監督と選手という役割があり、私がこれまで所属したチームの多くは、目標からどのようにプレーをするかまで監督が決め、選手はそれに従い活動をしていました。しかし監督が選手に求めることと選手のやりたいことの相互理解ができておらず、選手は「自分のやりたいことができない」と感じ、モチベーション高く活動に取り組めず、チームは想定していた目標を達成できないことが多くありました。当時は、監督から与えられた事に答えることのみに注力していたため、監督の求めることと自分のやりたいことの位置づけが明確でなかったように思います。今思えば、自分のやりたいことを達成するということと、監督が求めることの接点を探し、より明確にした上で活動に取り組むべきだったと思います。
 このような状況はサッカーチームだけでなく、多様な人が集まる会社でも同様のことが起きます。例えば製造業の開発現場でも、どのような職務を持つか、担当テーマを何にするかなどを決める際に、上司の求めることと部下のやりたいことが相互理解できておらず部下のモチベーションが低下します。

 一人ひとりのモチベーションが組織の成果や生産性を決める大きなファクターであることは間違いありません。では、モチベーションを向上させるにはどのような取り組みが有効なのでしょうか。

 仕事の適性を考える際に【MUST/WILL/CAN】の枠組みがあります。「MUST」は会社・上司が求めること、「WILL」は部下のやりたいこと、「CAN」は部下のできることです。MUSTとWILLが一致していると、やりたいことに取り組めるので部下のモチベーションは高く、更にCANも一致、つまりその仕事をする実力も十分に備わっていれば、その仕事に適性があると言えます。

 今回は部下のモチベーションに着目し、MUSTとWILLの関係を考えていきます。
 上記したようにMUSTとWILLに一致があるとモチベーションが高くなりますが、それをモデルで表すと図1になります。モデル図の輪はそれぞれMUSTとWILLであり、重なり部はMUSTとWILLに一致があるということ表しています。

MUSTとWILLの関係図1

 よくあるケースは、図2のように上司が部下のWILLを把握しないままMUSTから考えた目標・仕事を一方的に押し付けてしまった結果、MUSTとWILLが一致せず部下のモチベーションが下がってしまうことです。

MUSTとWILLの関係図2

 一方、MUSTである職務や担当テーマを、部下のWILLに合わせて変えることが難しい場合も多々あります。ではMUSTとWILLの一致が無い状況からどのように歩み寄っていけばよいのでしょうか。

 はじめに、上司が部下のWILLをしっかりと把握できていることが大切です。その際のポイントとして、個人のWILLは単純に一つに限定されないので、部下の仕事に関する思いや成りたい姿に対して「それで全てか」という観点で聞くことが重要です。
 次に、MUSTとWILLをどのように接点づけられるかに移っていきますが、ここでは私の過去の実体験をもとに説明します。

 私は、前職の製造業で「材料の基礎研究を通じてエネルギー問題を解決したい」というWILLを持っており、希望が叶って研究者としてその業務に就いていました。しかしある時、基礎研究をサポートする部門である分析・評価部署に異動することを会社から言い渡されました。その時は「なぜ自分が異動しないといけないのか」という思いになりましたが、上司と話し合いをした際に、これからサポートするエネルギー関連の基礎研究がいかに社会貢献するのかと、その基礎研究の成功のために分析がどれだけ重要かを説明してくれました。そして、そうした話し合いを経て本当の自分は「エネルギー関連の仕事を通じて社会貢献をしたい」ということに気が付きました。その結果、はじめはエネルギー関連の基礎研究をしたいというWILLと分析・評価業務でサポートするMUSTは離れていると感じていましたが、上司がWILLとMUSTの接点を丁寧に説明してくれたお陰で、WILLが広がってMUSTと重なり、当初の希望とは違った職務に就く場合でも、モチベーションを高く保ち、業務に取り組むことができたのです(図3)。
 接点を見つけた後は、自分のキャリアに対する分析・評価業務の位置づけが明確になり、まずは研究者をサポートし社会貢献しつつ、幅広い技術・知識を獲得し、再び基礎研究をする際に役立てようと前向きに分析・評価の業務を捉えることができました。
 このような経験から、部下自身が自分のWILLが何かということを日頃から自問自答し、今の仕事の意義や自分のキャリアプランに対する位置付けを明確にしていくことや、明確にならない場合は自ら上司に相談するという主体的な姿勢が必要であることがわかりました。

MUSTとWILLの関係図3

 今回はモチベーションについて、MUSTとWILLの関係で考え、2つの接点をどう探すか、接点がないと感じている部下に対して上司がどのように働きかけ自ら考えさせるか、また部下自身の姿勢はどうあるべきかをご紹介しました。
 部下だけで接点探しができない場合もよくありますが、その際は上司のサポートが必要です。その時の大前提として、普段から上司から部下への声掛けなどで部下からの信頼を得て、上司と部下が腹を割ってWILLについて話し合える関係を築いておくことが大切です。

 もし皆さんのチームで部下のモチベーション高く取り組めていないと感じるのであれば、上司は部下のWILLの把握・MUSTの与え方の確認と接点を一緒に探すことはできないかどうかを検討してみてはいかがでしょうか。また、部下の立場にいる方は自分のWILLが何かを確認し、WILLとMUSTのつながりが明確で無い場合や上司の理解を得る必要がある場合は、上司を巻き込んで一緒に接点を探す取り組みしてみてはいかがでしょうか。

執筆:北田 典央
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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