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挫折を乗り越え、次に生かす

 世の中では、「成長するには失敗を恐れるな」、「失敗を糧にしろ」とのアドバイスが多くあります。確かに失敗もしないような簡単なことばかりしていたら、なかなか成長はできないと思います。失敗には成長のための情報が多くつまっており、失敗できるようなチャレンジを積極的に行っていくことが成長につながるのはその通りです。
 一方、いつでも失敗を素直に振り返り、成長につなげられるかというとそうではないと思います。大きな失敗や失敗続きで挫折したときに、人は苦しく思い、失敗を避けたくなります。私の場合は転職後になかなか成果が出せない挫折を経験しました。自らの仕事の出来なさ具合に大きく落胆し、チャレンジを苦痛に感じ、仕事に対して逃げ腰になりかけました。その期間は失敗との付き合い方を間違えたゆえに、自らの成長の機会を逃していたと感じています。
 私は転職を機に挫折を経験しましたが、きっと多くの方がどこかで挫折を経験したのではないでしょうか。そんなときに数ヶ月のバカンスでも取れれば立て直せるのでしょうが、実際はそんな挫折の中でも、失敗を振り返りながら一歩一歩前に進み、立て直していく必要があります。そのときの心構えについての気付きをお話したいと思います。

失敗の振り返りを拒む感情的な心の防衛行動
 挫折しているときには失敗を認めて振り返ることを苦痛と感じて避けたくなります。普段でさえ、他人からの指摘をつい感情的に受け取ってしまうことがありませんか。例えば、失敗を指摘されるのがいやで、自分から「出来ないことはわかっている」アピールをしてみるなど、防衛線を張ってしまった経験をお持ちの方もいるでしょう。この防衛行動は失敗を認めて振り返えるだけの心のキャパシティを持てていない際に生じると考えられます。なぜなら人は少なからず他人から認められたいという感情があるため、「出来ていない」という結果を情報としてだけでなく、同時にストレスとしても受け止めてしまいます。ストレスを許容できる状態であれば、情報を正しく処理し、成長につなげることができます。当然、挫折時にはそんな心のキャパシティは持てていないと思いますので、ここでは失敗というストレスに対して感度を上手に下げていくことがキーポイントと考えます。

■自分の「出来ない姿」を想像したくない
 失敗に対するストレス感度を上げてしまう原因の一つとして、自分への高い期待があるのではないでしょうか。自分への期待を意識的にコントロールしないと、できると思ったことが出来なかった際の失望感を大きく感じてしまうことになります。
 私の場合は前職での成功体験に加え転職後の周りからの高い期待を受けて、無意識のうちに「これぐらい出来ないといけない」と感じ、いつしか「期待されているのだからこれぐらい出来るはずだ」と、自分への高い期待へと変換してしまいました。結果として「出来るはずなのにできない」という自らが作り出したギャップに苦しめられました。
 ここで学んだことは頑張ろうと気負ったときに、出来ない自分を想像したくないために高い期待を自分に課してしまうこと、そしてその悪影響です。自分を信じたい気持ちもありますが、根拠のない過度な期待を自分に寄せるのは自分を苦しめてストレス感度を上げることにつながってしまいかねないのです。

■今の結果に固執してしまう
 失敗に対するストレス感度を上げてしまうもう一つの原因は、頑張ったときに結果を重視してしまう傾向にあると考えます。この思考を意識的にコントロールしないと失敗を深刻に受け止めすぎてしまいます。
 私の場合は転職後に成果を出さないといけないというプレッシャーから、いつしか転職後の成果のみで自分自身を評価してしまいました。それまでの自分と何が変わったわけでもないのに急に自分を測る物差しを大きく変えてしまい、失敗するたびに自分を減点し、自己否定してしまいました。すると一つの失敗も深刻に受け止めてしまい、かえって失敗を振り返りたくない気持ちになってしまいました。
 ここで学んだことは自身の評価を多面的に見ることを忘れてはいけないことです。自分が大事にしているものや、評価できる自分を改めて思い出す必要があります。ある人は仕事以外でのコミュニティを思い浮かべるかも知れないし、ある人は以前の環境で失敗をしながらも積上げた実績かもしれません。もっと広い視野で自身を評価する目を失わなければ、直近の結果だけで安易に自己否定しないでしょう。

そして目標を立て直す
 挫折から立ち直ってきたら、今度は挫折の経験を生かすことで自分なりの成長のステップを再構成していけると思います。挫折したからこそ自分に何が足りなくて、どうなりたいのかを理解できるはずです。実経験を元に作成された目標設定は確実に成長をガイドしてくれます。
 私の場合は新しい職務における自己分析が足りなかったために、実業務で必要な能力とそれを身に付けるためのステップを設定していませんでした。確かに右にも左にも学ぶべきことは多かったのですが、しっかり焦点を絞って学ぼうとしなかったために、何を目指して何がダメだったのかが不明確になり、結局は振り返りにつなげられませんでした。挫折を経験したあとは、実業務で生きる範囲の学びにまずは絞り、一歩ずつなりたい自分に近づいています。


挫折とは新しいことに挑戦している証なのだと思います。このコラムが頑張っている方の助けになれば幸いです。

執筆:横山 英祐
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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