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不整合に着目した事業計画の見える化

 皆さんの中には事業計画を立案、もしくはその計画を踏まえて実行推進されている方が多くいらっしゃるだろう。その中には、計画が思い通りに進まかったという経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないだろうか。実際、私がご支援したお客様の中には、事業計画を実行する段階になってはじめて部門間で様々な不整合が発覚したために計画が進まなかったという困り事があった。本稿では、事業計画の実行レベルでの不整合に着目した計画の見える化について紹介する。

 まず、事業計画の不整合を発見する方法についてである。一般的に、事業計画はまず事業部長(とその補佐役)が目標を定め、目標を実現する計画を各部門で立てるという流れとなる。しかし、各部門で立てた計画は各部の目線で検討され個別最適になりがちであり、全体を通してみると部門間で担当者の重複が生じたり、ある部門の計画を進めると他部門へ悪影響を及ぼすといった不整合が生じがちである。ここでは、事業部目標、実行計画として達成手段やリソース、それぞれの関係性を見える化する手法を紹介する。この見える化によって、部門間での不整合を確認しやすくする。図1に例を示す。

図1 事業部目標、達成手段、リソースの見える化
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 事業部では、グローバルニーズに対応したラインナップ拡充という目標達成に向けて、開発リードタイム短縮による開発工数捻出や海外現地法規対応を掲げている。それを受けて商品企画部では、自部門の担当範囲だけでなく、各部門を巻き込んで達成手段を検討している。例えば、図1では、商品企画部が開発リードタイム短縮による開発工数捻出に対し、設計担当や品証担当による市場不具合対応工数削減のための未然防止活動や試作工程での試験期間短縮を検討している。この様に、事業計画の見える化では事業部目標、達成手段、リソースの関係性をツリー構造に表すことができる。同様に他の事業部目標も含め、商品企画部や品証部の計画をツリー構造に表すと、図2のような不整合が見えてくる。

図2 不整合の見える化
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試作工程での試験期間短縮と試験期間延長が背反
商品企画部では開発リードタイム短縮による開発工数捻出のために、試作工程での試験期間を短縮しようと考えている。一方、品証部では海外現地法規に対応すべく、各法規に対応した耐久試験強化を検討している。また、そのために試作工程での試験期間延長を予定している。結果、図2の①の様に試作工程での試験期間を短縮すべきか延長すべきかといった不整合が生じている。

不具合未然防止活動と、試作評価知見を考慮した試作評価実施で各担当を取り合い
商品企画部では不具合未然防止活動を設計担当と品証担当に担ってもらう考えである。一方、品証部では事業部目標である市場不具合撲滅のために、設計知見を考慮した試作評価を実施する予定であり、品証担当だけでなく設計担当にも参画してもらうつもりでいる。結果、図2の②の様に設計担当と品証担当の重複といった不整合が生じている。

 次に、図2の①、②の不整合をどう解消するかについて紹介する。

図3 不整合の解消(上位に立ち戻って代替手段を検討)
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上位に立ち戻って代替手段を検討
試作工程での試験期間の短縮/延長について、事業部目標に立ち戻って優先度を検討する。図3の①の様に海外現地法規対応を優先するとした場合、商品企画部にとっては試作工程での試験期間短縮を譲ることになり、開発工数の捻出が難しくなる。そこで、試験期間短縮について上位目標に立ち戻り、開発工数を捻出するための達成手段を再度検討する。ここでは、図3の②の様に、実は商品企画部の計画検討段階から候補として挙がっていたが見送っていたCAEを活用した設計工数削減を代替手段として復活させており、設計担当に担ってもらう。結果、海外現地法規対応と開発工数捻出を両立させている。

図4 不整合の解消(リソースの割付け直し、代替リソースの活用)
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リソースの割付け直し、代替リソースの活用を検討
今度は、CAEを活用した設計工数削減を設計担当に担ってもらったことで、設計担当不足の可能性が生じる。そこで、リソースの割付け直し、代替リソースの活用を検討する。リソースの割付け直しについては、図4の①の様に不具合未然防止活動を品証担当に主となって実施してもらうことで、設計担当の工数を減らしている。また、代替リソースの活用については、図4の②の様に元設計担当の方に設計知見を考慮した試作評価実施に参画してもらうことで、設計担当の工数削減を検討している。結果、各担当が実行可能な達成手段となっている。

 事業部目標および、その達成手段やリソース、それぞれの関係性を見える化することで、部門同士が認識を合わせやすくなり、達成手段やリソース不整合の発見・解消がしやすくなる。是非、計画の実行力を高めるために、上記の様な見える化を取り入れてはいかがだろうか。

執筆:林 裕之
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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