多事想論articles

ユニバーサルデザインのプロセスと製品開発のプロセス

■はじめに
 社会の高齢化・国際化と、人の多様性を尊重する意識の浸透とともに、製品やサービスを「ユニバーサルデザイン」(「アクセシブルデザイン」などとも呼ばれます)の観点で配慮することが、今や行政・企業で当たり前のこととなってきています。私自身、ボランティアでこの領域に携わり貴重な体験をさせて頂いていることから、今回、製品開発プロセスとの関係性の切り口で、特徴をご紹介したいと思います。

■ユニバーサルデザインとバリアフリー
 ユニバーサルデザイン(以降、文中ではUDと記載)とは、故ロン・メイス博士が、1985年に提唱した、「文化・言語・国籍の違い、老若男女といった差異、障害・能力の如何を問わずに利用することができる施設・製品・情報の設計(デザイン)」の考え方を表すものです。(※)

 似た考え方として知られる「バリアフリーデザイン」も、ハンディキャップの有無によらず社会生活を快適に過ごせるようにするという同じ目的を持ちます。ただし、両者のアプローチには違いがあります。バリアフリーは、既存のモノの構造に改造や工夫を加え、障害を持つ方や高齢者が直面する不便さを低減します。たとえば、スロープを設け段差を解消する、エレベーターやエスカレーターを設置する、点字ブロックを敷く、などの改善設計策が例示できます。一方UDは、企画・構想段階から、「できる限り多くの人に使いやすく、事後の改造が不要なこと」という重要要件を、徹底して追求していくことが特徴です。

■日本での取組み
 UDの理念を意識した日本の取り組みは早く、1990年前後から先進的なアイデアが創出されてきました。また、日本では、デザインを知財権で囲い込まないライセンスフリーの形を取り、業界や国境を越えた普及を促した事例も多数ありました。

 早期の成功例のひとつが、著名なシャンプーとリンスの容器です。シャンプーボトルは触覚的に分かりやすい凹凸のあるデザインとし、リンスのボトルには凹凸がない、という対比から、視覚に障害のある方が間違わず安心して使えるようになりました。さらにこの仕様は、髪を洗う際に誰もが目をつぶることから、すべての人にとってありがたいものになりました。ほかにも電話のプッシュボタンの5の凸点、プリペイドカード種別を示す切欠き、公共空間での見やすいピクトグラムなどが早期に実現され、現在は、文具、家電、住宅設備、飲食品へと大きな広がりを見せています。

■ユニバーサルデザインの検討の流れ
 日本でのこの分野の取り組みでは、障害の当事者・デザイナー・エンジニア・専門家らが協調した手弁当の活動も重要な役割を担ってきました。その活動は、おおむね以下の流れで行われました。

①多様な特性の方々(障害者、高齢者、妊婦、外国人など)の日常生活の不便さをアンケート・ヒアリングで調査し、
 問題点を定量的・定性的に把握する
②重大な不便さを解消する機能は何かを掘り下げ、複数案を比較検討する
③機能達成の手段としての最適な意匠やメカニズムを検討する
④試作品でのモニター活動も通して不便さ解消への裏付けを取り、企業や関連機関に提案する

■製品開発との共通点と違い
 こうしたUDの検討と、従来の製品開発とのプロセスの共通点はどこにあるでしょう。

 共通点は、解決策を思い付くまま挙げる代わりに、問題を把握し、適切な提案を導出したことです。UDの検討でも、製品開発と同じく提案に至る問題と根拠を明確にしたため、企業の理解も得られやすくなりました。

 その一方、UDの検討では、個別の不便さ解消から真のニーズを検証し、「できる限り多くの人に使いやすく、事後の改造が不要なこと」という要件を設定したことは特徴的で、また、この高いハードルを越えるために、既存の構造の制約に捉われないよう、ニーズと機能を重視して、あるべきデザインと仕様を突き詰めました(上記②→③)。その結果、人の動作や五感によくフィットした方式の選択の幅が広がり、実現のためのコストも抑えられ、多くの人に利便性や快適さを提供することができました。

■業務へのヒント
 今回ご紹介した事例は、多様性の尊重という目的に留まらず、開発に携わる多くの方々にヒントをご提供できるものと考えています。なぜなら、私たちが製造業のお客様にお伝えしている、「ニーズをもれなく捉える」「モノの構造ありきでなく、要求・機能を考え抜く」という設計プロセスと同様の過程を押さえて成功に至ったこと、また、昨今、イノベーションプロセスで注目される「デザイン思考」の考え方が具体化された典型例でもあったことが、その理由です。

 最後に、皆様が提供する製品やサービスが、できる限り多くの人に使いやすいものとなることを願い、ロン・メイス博士による「UDの7原則」を記します。(※)

・どんな人でも公平に使えること
・使う上での柔軟性があること
・使い方が簡単で自明であること
・必要な情報がすぐに分かること
・うっかりミスを許容できること
・身体への過度な負担を必要としないこと
・アクセスや利用のための十分な大きさと空間が確保されていること

本文中(※)は、出典Wikipedia

執筆:新井 ゆかり
※コラムは執筆者の個人的見解であり、iTiDコンサルティングの公式見解を示すものではありません。

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