多事想論articles

優れたリーダーの秘訣

 チームを上手く動かし、プロジェクトを成功に導いているリーダーは、一体何が優れているのでしょうか。
 私はこれまで、複数のメーカーで数多くのプロジェクトを経験してきました。そのときどきの成功、失敗要因を振り返ってみると、見えてきたのは「プロジェクト成功率の高いチームリーダーであるほど 、チームメンバーのモチベーションコントロールが抜群にうまい」ということでした。チームメンバーのモチベーションの高低が、チーム全体のアウトプットに大きな影響を与えている ということです。
 本コラムでは、優れたリーダーが実践している「3つのモチベーションコントロールの秘訣」についてご紹介します。

I.丁度良いハードルの高さを設定している

 ある優れたリーダーは、メンバーに仕事を依頼する際、まず出来そうかどうかを確認した上で、完成形のイメージが湧くか、完成までのプロセスはどう描けそうか、それが難しいとしたらどこがわからないのか を必ず詳細に問いかけていました。そして、その問いかけの結果を受けて、最終的な到達点を調整し依頼内容を決定していました。この結果、メンバーは皆、納得感に基づく強いモチベーションを持って、仕事に取り組み始めることができたのです。
 優れたリーダーの秘訣のひとつ目は、メンバーのモチベーションを最大限に引き出すことのできる、最適なゴール設定ができることです。この"最適な"というところがミソです。ハードル(相手の現状の立ち位置と目指すべき到達点との差)が低すぎると、やることが簡単過ぎるためモチベーションが上がりません。ある程度のチャレンジは、モチベーションアップに不可欠です。逆に、ハードルがあまりに高過ぎると戦意喪失し、どう対応していいのか分からず途方に暮れてしまいます。その人の知識、経験、業務遂行能力によって、モチベーションを最大化するハードルの高さは異なるのです。優れたリーダーは相手に応じた"ちょうど良い高さ"を、緻密なコミュニケーションの中で見極め、上手くゴール設定しています。業務が忙しくなればなるほど、疎かにしてしまいがちなことですが、これを如何に丁寧にケア出来るかが大事なのです。

Ⅱ.ロジカル(論理的)だけでなく、エモーショナル(情緒的)を大切にしている

 これから紹介するのは、急に大きな仕様変更が決定した際に、リーダーがメンバーに語りかけた言葉です。「製品仕様の変更が急遽決定した。残り少ない開発期間の中で、何としても目標を達成できる構造を考えねばならない。これまでやってきたことが水の泡となってしまうし、これまでとは大きく考え方を変えなければならない難題だ。皆にはこれから暫くの間、多くの負荷を強いることになるだろう。だが、我々はチームだ、泣き言はどんどん言って欲しい。共有して一緒に困ろう。分担はするが投げっぱなしにはしない。そしてこの課題を解決できたなら、社会に与えるインパクトは相当大きなものになるだろう。そして、製品がお客様 の手に渡った時、きっと多くの人が笑顔になってくれるだろう。この会社の社員であること、開発者であることをもっと誇れるようになるはずだ。だから、一緒に頑張ろう。」
 物理的・工学的問題と日々戦っている開発現場は常にロジカルです。しかし、人はロジカルだけでは動かせないことが往々にしてあります。論理的な正しさと、やりたいという気持ちや熱意は必ずしも直結しないのです。前述の優れたリーダーは、大変な時にこそチームで助け合い、目標を達成することの気持ち良さを伝えることで一体感を醸成していました。また、仕事の楽しさや将来の夢を語ることで、今取り組んでいる仕事の意味と価値の大きさを伝えていました。その語り口はたとえ穏やかであっても、リーダーの内に秘めた熱は、メンバーに自然と伝わり、プロジェクト遂行への大きな原動力となったのです。

Ⅲ.困難を乗り越えた成功体験を共有できている

 私自身、ある難しい業務課題と対峙していたときのことです。リーダーや他のPJメンバーが、課題を上手く解決していく中、自分はそれを上手くこなすことができていませんでした。どんなに時間をかけて努力を続けても、自分の能力では到底成し得ないのではないかと、絶望さえしたことがありました。そんな状況下でのリーダーの言葉は、「難しいのは当たり前だ。自分も同じようにかつて悩み苦しんだ。だからこそ課題解決のため、関連する技術書をたくさん読み込んだし、研究部に何度も相談に行った。社内過去トラブル集については、重要そうなものの確認だけでなく、500件を超えるデータも全て丹念に読み込んだ。それがあって今やっと、自分は解決のためのアイデアがすぐ思い浮かべられるようになったんだ。」
 チームで業務を進めていくと、当然、個々人の能力差が顕在化してきます。人より上手く進められていないと感じたメンバーは、自己嫌悪に陥り、自信を失い、モチベーションが低下していきます。この状況をいち早く察知し、ケアすることが大切です。能力差は日々少しずつの努力の積み重ねにより埋められるということを、リーダー自身が経験した失敗とそれを乗り越えた実例に基づいて語り、失った自信を取り戻してあげるのです。それが困難の先にある大きな成長に希望を見出させ、モチベーションをグッ と上げることにつながるのです。

 以上、私の実経験をもとに、優れたリーダーのチーム運営の秘訣をご紹介しました。「丁度良いハードルの高さを設定している」、「ロジカルだけでなく、エモーショナルを大切にしている」、「困難を乗り越えた成功体験を共有できている」の3点です。一朝一夕で獲得できるスキルではありませんが、メンバーへの深い配慮に基づく緻密なコミュニケーションが根底にあると思います。まずはこの内のどれか一つでもよいと思います、皆さんも日々のチーム運営に、取り入れ てみてはいかがでしょうか。

執筆:吾妻 洋樹
※コラムは執筆者の個人的見解であり、iTiDコンサルティングの公式見解を示すものではありません。

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