多事想論articles

停滞した活動を前進させる

 個人的な話をすると、2016年度は数年ぶりに出張が少ない生活を送った。自宅にいる時間が増えたこともあり、妻・子供との会話による意思疎通がスムーズになった。ただ、2016年以前の出張中も電話・メール・skype・LINE等様々な手段で連絡を取り合っていたので、意思疎通がスムーズになったのはコミュニケーションの量が要因ではないように思える。
 一番変わったことは、朝・晩5分だけでも対面で会話するということである。対面で会話をすると、相手の表情や雰囲気から状況を理解でき、お互いのちょっとした悩みやモヤモヤした感情を共有して、その背景にあった出来事なども会話できるようになると感じている。特に相手の表情や雰囲気から状況を理解することは、対面以外のコミュニケーション手段では実現できなかったため、対面時のスムーズな意思疎通につながったのだろう。

 似たような話は仕事でもある。あるお客様先で問題を未然防止する新手法の導入支援を担当したときのことだ。お客様内には様々な立場の方がいた。新手法の導入を通じて新たな業務の進め方を企画して具体的なやり方を定めるAさん、開発プロジェクト向けに新手法を活用して新たな品質チェックリスト等のドキュメントを作成・管理するBさん、作成されたドキュメントを活用して設計を進めるCさん。3人とも、問題の未然防止が必要なことは理解しており、そのために新手法の導入が寄与するので、本活動の取り組みには総論賛成だった。ただ、開発プロジェクトの納期は厳しく、工数が逼迫している状況もあり、新手法の導入は計画どおりには進んでいなかった。そのタイミングで私は、新手法を用いたドキュメントの作成方法や活用方法をAさん・Bさん・Cさんに教育しながら、開発プロジェクトをフォローアップする立場として新手法の導入支援に関わった。
 ところが、Aさんが企画した初回の打ち合わせにBさん、Cさんが集まらず、前途多難な船出となったのだ。そこで、毎回、訪問した際にAさん、Bさん、Cさんと5分ほど立ち話をするように心がけた。最初は当日の予定の確認や前回打ち合わせからの状況進捗などの事務的な内容を個別に共有する程度から始めたが、そのうち週末の出来事などのプライベートについても話すようになっていった。その中で、相手の表情や雰囲気から状況を理解でき、相手のちょっとした悩みやモヤモヤした感情を共有し、開発プロジェクトの状況変化や社内の他部門からの追加作業の依頼による時間の無さなど、新手法の導入を不安に思う背景情報を聞けるようになった。立ち話の頻度が上がるにつれ、背景情報が共有できてきたことから、効果的な改善策や適切なタイミングでの新手法の使い方を私から提案することができ、スムーズな意思疎通が図れるようになった。その結果、Aさん・Bさん・Cさんは新手法の導入支援に積極的にかかわるようになっていった。ある時は、Cさんが関係する別部門のキーマンDさん・Eさんを打ち合わせの場に連れてきてくれた。またあるときにはBさんが今回のドキュメントを活用した新たな使い方を提案してくれた。そして、気づけばAさんもBさん・Cさんと毎日、個別に会話をするようになっていた。

 最終的には、新手法の適用状況を確認して課題を解決するAさん主催の会議で、コンサルタントがいない状況でもBさん・Cさんは積極的に関わるようになっていき、開発プロジェクトの日程が厳しい状況の中でも、新手法を導入でき、有効に活用できたのだった。

 ITIDは現場密着型のコンサルティングスタイルを標榜している。コンサルタントは、最新の手法や考え方を提供する役割をメインに担っているが、関係者と意思疎通をスムーズに進め、停滞した活動を前進させる役割も同時に担っている。今回のような場合には、短い時間の対面コミュニケーションが有効に機能する。意外とちょっとしたことで前進するので、似たような状況の組織では、試してみて欲しい。

執筆:前田 直毅
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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