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チームの生産性を高めるポイント

 私は前職で入社して間もないころ、仕事の生産性がなかなか上がらず、慢性的なストレスがありました。改善のため、仕事の進め方や資料作成関連の書籍を読み漁っていましたが、その中の一つにポジティブ心理学活用による生産性向上という考え方に出会いました。*1

■ポジティブ状態になることにより、やる気分子「ドーパミン」が増加
 ポジティブ心理学において、人はポジティブな状態になることでドーパミン量が増えるといわれています。ドーパミンとは中枢神経系に存在する神経伝達物質です。その働きは、意欲や集中力、ストレス耐性の向上等であり、疲労や空腹といった短期的な欲求を抑えて仕事を優先させることができるようにします。また高揚感や動機付けとも関係があるので「やる気の分子」と呼ばれています。
 このような、ポジティブな方がネガティブと比較して生産性が高いといったメカニズム・研究結果を背景に、最近では「努力の先に成功やポジティブがある」という考えではなく、「ポジティブな状態になった上で努力し、成功する」という考え方が常識になりつつあります。

■企業活動への活用
 このメカニズムを企業活動、例えばプロジェクト推進といった業務の中で取り入れるにはどのようにすればいいでしょうか?
 今回は、PM(プロジェクトマネージャ)とメンバの関係に着目し、相手の状態をポジティブにしていくためのポイントをご紹介いたします。 

PMが意識すべきポイント
 友人A(プロジェクト上はメンバ)とPMの関係は良好です。その理由は、PMが将来を見据えて頑張っている点を認めてくれて、チャレンジ推進やフォローをしてくれているからです。当初、友人Aは不安を抱えながら仕事を進めていましたが、PMが友人Aの状況を察知し、PMからアドバイスをもらうことができたので「自分にもできる」という将来の希望を持つことができました。またプライベートの関心に合わせて趣味や子供の話をしているので安心・信頼した状態になりました。このように関わってくれたため、自信を持ち、前向きな感情で仕事に取り組めることができたそうです。

 次に、友人BとPMの関係の例をご紹介します。プロジェクトは成功するものの、PMの進め方が一方的であることやPM自身自分の価値観が絶対的に正しいと信じていたので、友人Bは理解・納得していないまま仕事に取り組んでいました。その結果、友人BはPMから手段としてしか見られていないと感じるようになりました。このPMの対顧客の仕事の進め方は合理的で勉強になる部分はあったようですが、気が滅入り、仕事に集中できない日々が続いたそうです。

 これら2つの例を比較すると、前者のPMはメンバに対して認めることができる/共感できる点(以降は「接点」とします)があり働きかけることができていて、後者のPMはメンバに対する接点がなく(もしくはつくれておらず)働きかけることができてない、ということが挙げられます。

 前者のような状態にするためにPMが意識すべきポイントは、メンバの仕事やプライベートの価値観は自分と違うということです。そしてその上で、接点を作り、働きかけることが必要です。そうすることで、自信や安心感・希望を持つことができ、ポジティブになり、結果としてプロジェクトの成功確率は高くなるでしょう。また成功体験を通じた人材育成や、人間関係構築の面でも良い成果だといえます。

 上記したことはPMの基本的な心構えとしてあるべきでできている方も多いかもしれません。しかし高負荷など特殊な状況下では余裕がなくなってしまい忘れてしまうこともあるかもしれませんので、一度振り返ってみてはいかがでしょうか。

 1点、注意すべきことは、本コラムは「チームの生産性を高める」が主旨であり「メンバがポジティブになる」ではないということです。PMの意識として、プロジェクト成功のために、メンバに対して上記のような支援だけでなく、厳しい要求をしていくことも大事であることも合わせてお伝えいたします。*2

メンバが意識すべきポイント
 PMをポジティブ=生産性が高い状態にするためにメンバが意識すべきポイントも先程と同様、仕事・プライベートの価値観は自分と違うということです。
 この時のよくある失敗は、PMの方が実力上位であることが多いため、メンバがPMの価値観を「全て正しい」と無理に受け入れようとしてネガティブになってしまうことです。
 PMの価値観と違いがある場合は、その価値観が正しい/間違っているという見方をせず、PMの価値観は尊重しつつ、自分の価値観も大切にする姿勢が必要です(先程の友人Bにはこの点が不足していたように感じます)。そしてその上でPMの良いところに目を向けて接点を作っていくことが大切です。

■最後に
 チームの生産性を高めるためにPM・メンバが意識すべきポイントをご紹介しました。もしチームのPM・メンバの生産性をもっと上げたいとお考えの方は、本コラムの観点で対策できないかを検討してみてはいかがでしょうか。
 そしてプロジェクトを横断的に見ている管理職の方はそれぞれのプロジェクト内、組織内の人間関係を本コラムの観点でチェックして欲しいと思います。

■参考文献
 *1「幸福優位 7つの法則」 ショーン・エイカー(著)、徳間書店(発行)、2011年
 *2「やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける」 アンジェラ・ダックワース(著)、ダイヤモンド社(発行)、2016年

執筆:北田 典央
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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