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客観視による「変化対応力」の強化

 ロジャー・フェデラーは36歳。
 ビジネスマンにとっては働き盛りの年齢ですが、多くのプロのテニスプレーヤーは引退を考えざるを得ない年齢です。
 しかし、彼は2017年にテニスの四大大会である全豪・全英(ウィンブルドン)で優勝を果たしました。

 人間である以上、年齢を重ねることにより体力や筋力は低下しているはずですが、何故、彼は厳しい世界で成果を出し続けることができるのでしょうか。

 彼は自分自身の変化に応じて戦い方を変え、プレースタイルや道具(ラケット等)を柔軟に切り替えています。成果を出し続けるためのキーは、「変化対応力」と言えます。

 変化対応力は、自分が置かれた状況を客観的に把握した上で、狙いを実現するための的確な判断を下すことで発揮されます。

 フェデラーは、客観的に自分自身のプレーや対戦相手を分析するために、コーチの見解を活用しています。自分自身では気づきにくい、筋力・体力の変化や相手との相性を理解し、戦略・戦術を考え実行に移しています。
 フェデラーほど熟練し、テニスを知り尽くした選手であっても、自己を客観視するために第三者からの見解を必要とするのです。

 企業も成果を出し続けるためには変化対応力が重要です。企業にとって、第三者の立場で見解を述べることができるコンサルタントの活用は、自己を客観視し、変化に対応するための有効な手段です。コンサルタントの活用で成果を上げた自動車メーカーA社の例を挙げます。

 当時A社の開発は、どの開発案件も常態的に初期の想定工数を大きく上回っており、残業や休日出勤で対応していたため、現場は疲弊していました。

 同業他社がシミュレーションツールの導入により、開発の効率化に成功していることを知ったA社は、同様のツール導入を進める取り組みを始めました。

 しかし、ツール導入後も開発の状況は大きく変わりませんでした。自力での取り組みに限界を感じたA社は、その状況を解消するため、現状分析と改善のための取り組みを我々に依頼しました。

 分析の結果、下記2点の変化への不十分な対応が、業務効率を低下させている原因であることがわかりました。
 一つは、制御技術の複雑化です。ベテランエンジニアであっても全体把握が困難なほど複雑になっており、従来のベテランの知見に頼った対策手法が限界を迎えていました。従来通りのレビューでは問題をつぶし切れず、開発の後段で問題が明らかになって多くの手戻りが発生し、業務を圧迫していました。

 もう一つは、市場ニーズの変化が早くなったことです。従来のような開発期間をかけていたのでは時代遅れのものしか市場に出せなくなってしまうため、各部門が並行作業を進めて開発期間を短くしようと試みていたものの、いざ製品を組み立ててみると部門間の不整合がいくつも発覚するという状況でした。その結果、多くのやり直しが生じ、結局は開発が長期化してしまっていました。

 そこで、我々はA社に対し、下記の対策を実行しました。
 ① 制御レビューの細分化による問題の確実なつぶし込み
  1回のレビューの対象範囲を小さく設定し、段階的に範囲を広げていくことで、問題を確実につぶし込む。

 ② シミュレーションツールの活用による部門間不整合の早期抽出
  従来、不具合対策の際に使用していたシミュレーションツールを、製品の組み立て前の部門間の不整合抽出に活用し、手戻りを
  最小限に抑制する。

 我々コンサルタントが着実に伴奏しながらこれらの対策を講じた結果、徐々にA社の手戻り作業は減り、最終的には現場の疲弊感の軽減に成功しました。

 本活動後、A社の開発責任者から「自分達では環境変化に最大限の対応をしているつもりだったが、全く問題の本質を見極めることができていなかった。今回の取り組みによって、開発が良い方向に向かい、感謝している」とのお言葉をいただきました。

 A社の開発責任者のお言葉の通り、自社の製品や業務・技術を知り尽くした方であっても、自社を客観視し的確な対応をするということは、意外に難しいことです。
 読者の皆さまにも客観視が必要と感じたときには、我々コンサルタントをご活用いただければ、幸甚です。

執筆:高垣 英幸
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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