多事想論articles

音声翻訳に思うプロジェクト成功のコツ

 最近、我が家で音声翻訳ツールが大活躍している。義母が、日本に3ヶ月間滞在することになったのだが、日本語を全く話さないためである。母国語として中国語を、非母国語として韓国語を話す。一方の私は、中国語も韓国語も話せないため、音声翻訳ツールを活用することにした。コツを掴むのにしばらくの間、試行錯誤を要したものの、一旦慣れてしまえば、ほぼ一発で翻訳ツールから発せられる言葉の意味を理解できるようになった。便利な世の中になったものだと満悦していると、妻から、
「二人ともまるで"カタコト"の外国語を話しているようだ」
と皮肉を貰った。そこで、私は英語を、義母は韓国語を使って会話してみた。実際、このツールにとっては、小慣れた会話よりもむしろカタコト言葉の方が意味が通りやすい。

 ところで、プロジェクトに関わったことのある皆さんのうちには、メンバーの認識を統一できない感覚を持ちながら、モヤモヤしてしまった経験のある方はいないだろうか。メンバーの認識統一は、プロジェクト成功の前提となる最も重要な要素であり、これに事欠けば、プロジェクトの方向性が見失われ、引いては混乱に陥る。とりわけ、様々な部署/部門からステークホルダーが関わるプロジェクトにおいては、認識の統一を図っていくのに実に多くの困難が伴う。最近の少々変わった義母との会話を思い浮かべているうちに、ふと、その会話のコツがプロジェクトにおける認識統一のコツであることに思い当たった。①言葉の不疎通を意識すること、②相手にとってわかりやすい言葉で意思疎通すること、が重要だと私は捉えている。

181213_01.png

■①言葉の不疎通を意識する

 プロジェクトにおいては、言葉の不疎通があらゆる局面で起こり得ることを念頭におくことが重要である。音声翻訳のケースでは、あからさまに意味の通らない訳語がツールから発せられたため、我々は意識せずともそれに気がつき、早々に修正することができた。ごく当たり前のことと思われるかもしれないが、打ち合わせ等の通常の会話レベルでは、このような極端な状況は起こり得ない。そのため、言葉の不疎通にそもそも気がつかず、議論が"何となく"進行してしまうことが多い。仕事柄、顧客の内部会議に同席し、討議内容を一言一句詳細に分析することがあるが、「これほどの言い間違えや論理のすり替わりが多発しながら、どうして議論"らしきもの"が成立しているのか」と、特にコンサルタントとして入社間もない頃は、何度も面食らった。目前で繰り広げられている議論の論理的な成立性に意識的に注意を払うことの重要性を改めて実感した。

■②相手にとってわかりやすい言葉で意思疎通する

 それぞれの専門用語や慣例語から離れて誰でも知っている簡単な言葉で表現することが重要である。先の義母との会話では、我々は、意味が通るように音声翻訳ツールに喋ってもらうために、可能な限り簡単な言葉で表現するように努めた。そして、意味が通じたかどうかの確認をその都度繰り返しおこなった。結果として、母国語らしからぬ"カタコト"言葉になったわけだが、その方が相互理解が進んだ。プロジェクトの推進会議を実施していると、それぞれの部署/部門が使っている特有の言葉がいっせいに飛び交うことになる。そのような場で議論をリードしていく場合、"あえて知らぬ振りをしてでも"その意味を尋ね、簡単な言葉への言い換えを促すのはメンバーの認識の統一を進める良い方法の一つである。そして、議論がある程度熟してきたタイミングを見計らって、討議内容を概念的に明示し、認識の再確認を繰り返すことが欠かせない。
これらをうまく実践できるようになれば、
「ああ、そういうことだったのですね、完全に誤解していました」
というような場面に遭遇することになるだろう。

 以上、プロジェクト成功のための認識統一のコツについて述べた。頭で理解しただけではなかなか身に付かないため、日ごろの機会を捉えて何度も実践を繰り返すことが重要である。

執筆:長尾 育弘
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

資料ダウンロードはこちら