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論理設計ができる部下を育成する

 設計部門の管理職の方とお話する中で、「設計根拠が曖昧なまま、レビューに臨む部下が多い」という悩みを多く聞きます。話を詳しく聞いてみると、そういった部下は、要求仕様(目標値)の達成に感度がある設計諸元を経験的に知っており、その設計諸元を根拠なく変更しては、数値シミュレーションや試作評価を繰り返すことによって、要求仕様を満足する設計を行っているとのことでした。

 このようなトライ&エラーによる設計を絶対にやってはいけないということではありませんが、効率がよいとは言えません。また、試験結果が要求仕様を満足した理由を論理的に理解できていないため、応用が効きません。

なぜ、このような設計をしてしまうのでしょうか。私のこれまでの経験から、理由としてベースとなる考え方と仕事の進め方の2つの側面が考えられ、両方に対して手を打つことが有効です。本コラムでは、それら2つの理由とその対策方法をご説明します。

 まずベースとなる考え方に関してですが、部下が、経験的に知っている要求仕様と設計諸元との関係には、物理法則や統計に基づく論理的な裏付けがあることを理解していないことが理由として挙げられます。忙しさを背景に、要求仕様と設計諸元の間にある論理的な関係を説明するための工学理論や物理量注1、過去の実験結果に関する学習が疎かなまま設計業務に従事していることが要因の一つです。そのため、学習を効率的に行いながら、論理的に設計する癖を習慣づけることが課題となります。

 最も効果的であると考える対策をご説明します。部下が設計を始める前に、部下の理解度を確認し、論理的に設計する癖が身についていないと判断した部下に対しては、まず要求仕様と設計諸元との関係を物理法則で考えることの必要性を説明します。次に、物理法則で考えるための物理量を部下に提示し、要求仕様と物理量と設計諸元との関係を検討するように促します。部下に直接、物理法則を教えるのではなく、物理量=ヒントをもとに、自分で物理法則を考えてもらうことで、論理的に設計するように誘導します。

 水筒の設計を例に説明します。1時間で0.1℃の温度低下しか許さない要求仕様達成を、論理的に設計する癖が身についていない部下が検討するとしましょう。部下が設計を始める前に、例えば、ヒントとして熱伝導率(ある物質について、熱の伝わりやすさが示された値)を部下に提示し、要求仕様と設計諸元との関係を物理法則に基づいて検討するように促します。具体的には、設計諸元である材質をアルミからチタンに変更したとき、物理量である熱伝導率が200W/mKから10W/mKになり、アルミとチタンの熱容量が同じだと仮定すると、熱が伝わる速さが1/20になるため、1時間で0.02℃の温度低下改善効果があるといったロジックを検討させます。熱伝導率というヒントから、要求仕様達成に向けて必要な伝熱工学の理論などの調査、学習を行い、それを通じて論理的に設計する思考を訓練できます。

 ただし、この対策は、上司が物理法則を理解していることが前提となります。上司が(あるいは組織として)物理法則を理解できていない設計に取り組む場合は、論理的に設計する癖が身についている部下をアサインし、物理法則の解明から始めることが必要です。そのためにも、部下の理解度については、日々のコミュニケーションや能力開発面談の中できちんと把握しておくことが重要です。それに基づいてヒントの内容やレベル感をコントロールすることが理想です。

 もう一つの、仕事の進め方に関する理由は、試作評価を繰り返したり、過去の製品で他人が作成した数値シミュレーションでパラメータスタディしたりすることで、設計諸元の検討ができてしまうことです。もちろん、試作評価や数値シミュレーションを行うことは、要求仕様を満たしているかを確認する上で必要です。ここで問題視したいのは、物理法則に基づく検討ができていないがゆえの非効率なトライ&エラーの繰り返しを組織として見過ごしてしまうことです。そのため、物理法則に基づかない検討を防ぐための関所を設けることが課題となります。

 こちらも、最も効果が期待できると考える対策をご紹介します。まず、1つ目の対策と同様に、試作評価や他人が作成した数値シミュレーションを実施する前に、要求仕様と物理量と設計諸元の関係を検討するように指示します。次に、物理量と設計諸元を用いて、要求仕様値を部下に机上計算させた結果を確認し、それをもって試作評価や数値シミュレーションを承認するルールを設けます。これにより、闇雲なトライ&エラーによる検討着手を低減すると同時に部下の論理設計の意識を向上させることができます。

 水筒の設計で例えると、1時間で0.02℃の温度低下しか許さない要求仕様を検討する場合、1つ目の対策で例にあげたロジック検討に基づいた机上計算結果(材質変更による熱伝導率変化1/20、単位時間当たりの温度低下0.02℃)を確認後、試作評価や数値シミュレーションの実施を承認するといった具合です。

 今回ご紹介した2つの対策を実践してみてはいかがでしょうか。2つの対策は、すぐにでも実践できると思います。部下育成に向けて、要求仕様と物理量と設計諸元の関係を予め図表で書き出しておくとより的確に指示を出しやすくなります。書き出し方については、コンサルティング実績がございますので、お困りの際には是非お問い合わせください。

注1)物質系の物理的な性質・状態を表現する量

執筆:宗和 誠
※コラムは執筆者の個人的見解であり、iTiDコンサルティングの公式見解を示すものではありません。

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