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プロジェクトマネージャの役割と権限 -PMの制度-

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1-1 誰をPMにするか?

 今でこそA社にはPMという役割が存在するものの、10数年前まではそのような役割が存在していなかった。当時は、メカ、エレキ、ソフトの分野別にリーダーが置かれ、各リーダーがそれぞれの担当範囲に関する状況を経営層や顧客に報告していた。しかし10数年前に当時の事業部長がPMという役割を設けることを決定し、PMが製品開発の全体を取りまとめるよう指示した。製品開発の進捗は製品全体の視座で管理しなければならないからである。仮にメカ設計だけが計画通りに進んでいても、エレキ設計やソフト開発の日程に遅れが生じれば、製品として開発納期を守ることができない。
 このとき、誰がPMを担うかが問題になる。A社では、エレキ設計者がPMを担当することになった。これは、A社が開発する製品の特性としてエレキ要素が製品の機能や性能の大半を決定付ける、という背景から来ている。
 しかし、PMを担うようになったエレキ設計者は、最初から現在のようにPM業をこなせたわけではなかった。畑違いのメカ設計やソフト開発については、まず専門用語から学ばなければならない。最初は困難なことも多かったが、やがてPMとなったエレキ設計者は工場のラインに対する知識なども蓄えていき、その知識や経験がさらに継承され、PMとしての知識がエレキ設計部門の中に蓄積されるようになった。そのことが今でもエレキ設計者をPMとすることにつながっている。変更箇所がメカ要素だけにとどまるような派生機種の開発もあるが、そのような場合もエレキ設計者がPMを担当している。

 一方B社では、どの技術領域を担当する人がPMになるか、一律には決まっていない。その理由は、製品によってどの技術領域が製品開発を主導するか異なるためである。傾向としてはメカ設計者がPMになることが多いようだが、ソフト開発出身者がPMになることもある。誰がPMとなるか、そのアサインは技術部門のトップによって決められる。PMには、生産準備フェーズまで含めた業務知識の幅広さが求められ、その有無がアサインの判断基準となっている。

 以上どちらの事例も、PMにはその製品開発を主導する技術領域のエンジニアが選ばれている。これは、PMが技術的な知識を持っていなければならない、ということを意味している。そうでないなら、製品開発を主導する技術領域からPMを選定する必要はない。また、PMに選ばれるエンジニアは幅広い業務知識も持っている必要がある。業務上必要な手続きや守るべきルールなどの知識は、開発を円滑に進行させる上で不可欠だからだ。従って、誰をPMにするか?という問いに対する答えは、技術スキルと業務スキルを併せ持つ人だと言えよう。

1-2 どのように育成するか?

 A社が10数年前に導入したPM制度は、最初からスムーズに立ち上がったわけではなかった。それまで、エレキ設計者はエレキの範囲だけを見ていればよかった。そこにPMという新たな役割が与えられ、ほとんど知識のない他の技術領域も含めて製品全体を取りまとめなければならなくなったのである。当初は反発も大きかった。
 しかし、今ではエレキ設計者がPMを担当することはA社の中で当然のこととなっている。ここまで意識を変えられた要因として、当時の事業部長が果たした役割が大きい。事業部長は、製品全体の視座で開発状況を把握できるような役割を設け、そのマネジメントのもとで製品開発を進めるべきであると、その必要性を重視し、常に訴え続けた。その結果、エレキ設計者は自らがPMを担当することを職務として自覚するようになったのである。
 このように、PMを育成するためには、まずそれに向けて意識付けをしなければならない。若手に対しても、いつかは自分がPMになる、という意識を持たせるのだ。現在A社では、PMは1名でなく複数名がチームとなって担当している。このチームはベテランと若手の組合せで構成されている。その中で、日々の業務を通じて製品全体を取りまとめるという意識が先輩から後輩に伝承されている。
 A社のPM体制は、経験の豊富な設計者がリーダーとなり、これを若手のメンバーがサポートする形になっている。時にはまだ経験の浅い設計者がリーダーにならざるを得ない場合もあるが、そのような時はベテラン設計者がサポートに回るようにしている。このようにチームを組んでPMを担当する目的は、前述したように意識を伝承することもあるが、むしろPMを育成するという面の方が強い。PMの業務には定型化しづらい面も多くあり、場面に応じた臨機応変な対応や、相手に配慮した様々な工夫が求められる。そのようなスキルを伝え、新たなPMを育てていくためには、実務でのOJTが有効だ。これを実践するため、たとえ有能なPMであってもサブリーダーを付け、PMの業務を伝え、次世代のPMを育成しようとしているのである。

 B社は海外にも開発拠点を持っており、そこでの経験をPMの要件に挙げている。海外の開発拠点は国内ほど十分なスタッフを擁しておらず、様々な業務を自分で処理しなければならない。つまり、国内にいるときよりも担当業務の幅が広がるわけである。そのような環境では、人材が自然に育つ。そのため、見込みのある人材にはなるべく海外経験をさせるようにしており、帰任後にはPMを任せるような流れが出来上がっている。
 かつては開発機種数も現在ほど多くなかったためPMの数も少なくて済み、少数の「重量級」と呼ばれるPMに任せていればよかった。しかし現在は多くのプロジェクトが同時並行的に流れるため、より多くの技術者をPMとしなければならない。これに向けて重要となるのが、業務の標準化である。B社では製品開発の標準プロセスが定められており、かつその運用ルールも明確になっている。従って、初めてPMを任せる場合でも、身につけておくべき業務知識を教えやすく、また何か困ったことがあった場合でも周囲が支えやすくなっているのである。

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