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プロジェクトマネージャの役割と権限 -PMの役割-

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2-1 開発計画立案

 PMの役割の1つは、製品全体を視野に入れた計画立案や進捗管理である。B社で計画を立てる例を見てみよう。まずPMはマスタースケジュールと呼ばれる大日程レベルの計画を決める。次にそれをメカ、エレキ、ソフトなどそれぞれの開発部門が持ち帰り、中日程レベルの計画に落とし込む。これらの計画には、日程だけでなく、工数、品質、コストなどが含まれる。日数や工数については過去の実績データが蓄積されているため、計画を立てる際には過去実績を参照し、そこに効率化のファクターを加味して日数・工数の予測値を算出している。品質やコストについては、開発フェーズごとの定量目標を設定する。たとえば品質であれば、ある開発の節目までに性能の70%を達成しなければならないといった目標が設定される。日程、工数、品質、コストなどの計画があるレベルに到達しないと、開発は始まらない仕組みになっている。

2-2 プロジェクト運営

 計画に対する進捗を管理することもPMの役割である。前述した通り、B社の開発計画ではQCDの観点で目標が定量的に設定されている。 同様に進捗も定量的に把握するようになっており、月に1回の頻度でチェックが行なわれ、実績が計画や目標から大きく外れる場合には関係者と相談し対策を講じている。 品質計画に対して未達の場合は、デザインレビュー(DR)を開催しても結果の承認が得られないため、開催を延期する。DRの日程調整や進捗状況の情報収集などは、PMの補佐チームが担当している。 作業的な面を補佐チームが担うことでPMの負担を軽減している。
 製品全体の進捗管理はこのようであるが、メカ、エレキ、ソフトなど各部門内の開発業務はラインマネージャが管理している。PMは、それを後押ししながら指揮をとる形になる。 したがって、プロジェクトの成否はPMやメンバーだけでなく、ラインマネージャの優劣にも依存している。技術領域にまたがるような問題が生じラインマネージャだけでは解決できない場合には、PMが調整に入る。 傾向として、開発後期に発生した問題はPMが調整に介入することが多いようである。

 B社におけるPMの役割として、もう1点特筆すべきことが挙げられる。それは、振り返りレビューへの参加である。B社の製品開発プロジェクトでは、プロジェクト完了時に振り返りレビューを必ず実施している。 レビューの中では工数の実績が計画に対して超過した理由や、設計変更が生じた要因などを振り返り、その原因を徹底的に掘り下げている。 そこに今回製品のPMが参加するのはもちろんのこと、さらに次製品のPMも参加した合同レビューとして実施している。振り返り結果は文書として残されるものの、文書だけで内容を十分に伝達することは難しい。 そのような中で、次製品のPMが前製品の振り返りレビューに出席するのは、同じ失敗を繰り返さないようにするための工夫なのである。

 A社におけるプロジェクト運営の工夫も見てみよう。A社のPMはエレキ設計者であるが、PMはエレキ以外のメカやソフトを担当する設計者に対しても積極的なフォローを行っている。 特に重要なプロジェクトでは、専用のプロジェクトルームを設置し、「大部屋活動」と称してその部屋ですべての打合せを実施している。メンバーは開発部門以外にも品質保証部門や製造部門など関連する各部門から選ばれる。 複雑な問題に対して、開発と品質保証、開発と製造、のような個別の議論を繰り返すばかりでは、解決するまでに時間がかかってしまうため、必要なメンバーが一堂に会して議論するようにしている。
 このときに重視しているのが、徹底した「見える化」である。計画や実績、課題と対策状況などはすべて紙に描いてプロジェクトルームの部屋に貼り出している。 Excelなどのデータを使って課題管理を行う職場は多いが、このように紙を貼り出すことでプロジェクトの状況、たとえば現在抱えている問題点やその解決状況などが一目瞭然となり、メンバー全員の情報共有がやりやすくなる。

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