多事想論articles

デフレで見える個人主義

 昨年11月20日にデフレ宣言が出され3ヶ月が経過しました。物価はどんどん下落し、私の住まいの近くのスーパーではおにぎり68円、お弁当290円など、こんなに安くして本当に大丈夫なのかと心配になるほどです。しかし、町の声は「安ければ安いほど良い」、「もっと下がって欲しい」などと心配どころか目先で個人的にメリットがありそうなことは何でも歓迎という発言が意外と多いのに驚くと共に、大きな不安を抱きました。 企業の体力を超えた価格低下競争がもたらすものは共倒れ、または最強の一社のみが生き残り、良い意味での競争が全く無くなってしまうのですから。

 そこまで大げさに言わないまでも、例えば、スーパーで働く隣人が契約を打ち切られる。勤めている会社が提供する様々な価値の値段が下がった末、給与が下がるといういわゆるデフレスパイラルが生じてしまう危険性があるのです。暢気に「安いのが一番」などと言っていてはいけないのです。

 「安いのが一番」の蔓延は、当面の自分がよければそれでよいという狭い視野での個人主義から来ているのではないかと考えます。皆さんの職場でも、「自分は頑張っているけど、XX部門が○○を出さないから期限に間に合わなかった」とか、「隣の製品プロジェクトが遅れているけど、自分のプロジェクトはうまく行きそうだから問題ない」などと言う発言はありませんか。 このような発言は、狭い視野でしか業務を捉えられていないがために発せられるもので、あなたの職場でも耳にするようなことがあるとしたら、狭い個人主義に陥っている可能性があります。

 日本が、狭い視野での個人主義に陥ってしまうのには様々な理由がありますが、近視眼的にとにかく自分を正当化したい、もしくは得をしたいという思いで事象を捉えてしまう癖がついてきてしまっていることが大きいと考えられます。 日常生活でも、町内行事は何処吹く風、周囲への迷惑事も自分らしさで片付けてしまい、規律や貢献という言葉が出てこない大人もいるようです。

 しかしながら、狭い個人主義は、刹那的でしかありません。このことをもうそろそろ日本人は根本から気づき、改めねばなりません。古めかしい言葉ではありますが、世のため人のためという、日本の価値観を取り戻したいものです。これは決して自己犠牲を受け入れましょうとか、苦労をしましょうと言っているのではありません。伝えたいのは、目先、自分だけがよければよいではなく、もう少しだけ世の中の人(ここには自分も含まれます)にとってどうなのかという観点で捉え、行動して欲しいということです。

 最後に、本文中、個人主義にあえて"狭い"と記したのは、個人主義も自己実現というポジティブな形で存在することもあるからであります。 自律した個人が自分らしさを発揮し、自己実現のために行なうことは、世のため人のためになっていることは言わずもがなです。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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