多事想論articles

覇権争い

 先月韓国ソウルに「開発力向上」をテーマとする講演に行って来ました。バンクーバーオリンピックで金メダル6個を獲得した余韻が残る中、ソウルの街は非常に活気に満ち溢れていました。特にキムヨナ選手に対してのメディアの取上げ方、国民の盛り上がり方は半端ではなかったようです。

 ウィンタースポーツに留まらず、製造業の世界でも韓国はサムスン、LG、現代など今や世界のトップに君臨する企業が現れています。日本のビジネス雑誌でもこれらの企業の特集は頻繁にあり、日本企業にとって、今やライバルというよりも目標と言った方がむしろ適している状況です。 現地の人の話によると、ソウル近郊では10~12億ウォン(8000万~1億円)ほどのマンションをそれらの企業に勤める社員が購入しているそうで、まさに隆盛を極めているという表現が相応しいのではないでしょうか。

 国内に視点を移すと、韓国企業に追いつけという現況の日本企業ですが、電機業界で見ると1990年頃までは日本が世界を席巻していました。戦後から欧米の工業を学び、数々のイノベーションを興すことにより、高度成長を遂げてきたわけです。しかし、その後自動車等の一部の産業を除いては、それ以降韓国企業に押されていることは自明です。 かつての欧米から日本、日本から韓国と製造業界の覇権がなぜ移り変わってきたのかというと、二つの大きな要因があると考えます。 ひとつは日本の成功体験が、正しく変化するべきスピードを鈍化させたことです。日本は自前主義のいわゆる垂直統合型の開発スタイルで成功を収めてきました。大量生産をするには理想的な形態でありますが、そのスタイルを作るのには大きな設備投資も必要で一度設備を作ってしまったら投資を回収するまで使い続けなければなりません。 結果論とは言え、目先の戦いに勝つために変化に対応しにくい環境を自ら構築してしまったのではないでしょうか。 そしてもうひとつは、戦後の日本が欧米企業を学び追い越したように、韓国企業は日本から学び取ったことを自社の開発プロセスにうまく取り入れて効率の良いかつ製品魅力が高い製品の開発を実現してきたことです。

 講演の聴講者からも感じたことですが、韓国企業はスピード感を持って次なる手を打つために真剣に取組もうとしていると思います。その本気度が日本企業で見られたような成功体験に浸かってしまって薄れてしまうというようなことが無い限り、韓国企業の世界覇権は長く続くかもしれません。 それほどの気迫、勢いを感じました。しかし、私の講演は以下のようなコメントで締めくくりました。「今の成功が永続できるかというとその保証はありません。いつ何時、新興国に凌駕されるかもしれませんし、先進国が巻き返してくるかもしれません。かつてのアメリカ、日本がそうだった様に。」
 R&Dイノベーション第4世代の戦いは韓国勢のほか、ITをベースに世界をリードしているグーグル、アップルを中心に既に佳境に入っています。21世紀は果たしてどこが世界の覇権を握るのでしょうか。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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