多事想論articles

予測精度の確かさ

 今年の冬から春への変わり目は天候が変わりやすく気温も乱高下し、毎日の服選びに苦労された方が多かったのではないでしょうか。私もクリーニングに出した真冬用のコートを引っ張り出してしまったくちです。変わりやすい天候のせいか、天気予報を自然といつにも増してチェックしていて改めて気づかされたのが、天気の予報精度の高さです。 1時間毎の気温、雨、雪などの精度の高い情報を事前に得られたものですから、その時になって慌てることはほとんど無かったように思います。その裏には気象衛星をはじめとする気象関連技術の進歩が大きく寄与していることは間違いありません。これらの進歩は自然災害などの未然防止に大きく役立っていることでしょう。

 気象に対しては、相当精度が上がった予測ですが、それでは人間界の予測は今どれだけの精度、そして意味があるのかを考えてみたいと思います。先般、各種メディアでも大きく取上げられた予測数値で面食らったのは、国内空港の需要予測と実績の乖離です。08年度の実績が予測を上回ったのは羽田、長崎、熊本、那覇、旭川、庄内、岡山、名古屋の8空港のみで、その他64空港の実績が予測を下回ったようです。 国土交通省の需要予測に基づいて最近開港した空港のほぼ全ては、需要予測を大きく下回りました。既存の空港の需要予測はまだしも、新規の空港での当て外れは大きな問題でしょう。空港は作ってしまったら後戻りが出来ません。維持費もかかりますし、物理的にもおいそれと廃港には出来ないはずですからここには高い予測精度が必要なはずです。 しかし、そこには現実離れした数値しかありませんでした。誰が受益を得たのかまでは存じ上げませんが、本当は大きな責任があるにもかかわらず、予測が外れても何のお咎めも無いとなると予測精度も上がらない、上げる必要が無いのかもしれません。

 国家レベルの予測でもこのような状況ですから、個人、企業レベルとなると、さらに精度を期待するのは無理な話となってしまうのでしょうか。 インターネット上で個人が提供している無料サービスや仲間内での株価の予測など、個人レベルの場合は外れたからといって文句は言われないでしょうし、情報を受け取る側も自己責任の範囲で他に迷惑をかけなけない程度のものがほとんどで、それなりにあきらめもつくでしょう。 しかしこれが企業レベルとなると、少なくとも同じ社で働く社員やその家族には影響が及びます。おいしそうな話をするだけして、いざ失敗しても責任はうやむやのままということが様々な企業でみられるのは残念でなりません。いつから日本の文化はそうなってしまったのでしょうか。この意図は、何も冒険をしてはいけないということではありません。 希望的なシナリオだけではなく、そのシナリオが崩れた時の対応策は少なくとも打ち出した上で、実行に移すという当たり前のプロセスが必要であるということです。

 あまりにずさんな予測値では先が見えません。予測値を出す側として予測精度を上げることは、各界それぞれに重要なのは言うまでもありません。しかし、人間界の予測はパラメータの数も多く、常に動的であるため限界があることも確かです。予測値を受ける側は値の意味やその値によってもたらされる影響がどんなものなのかを考えられるようにならねばなりません。 採算が取れない空港のような事象を日本に、そしてあなたの身の回りにこれ以上増やさないために。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

資料ダウンロードはこちら