多事想論articles

ゆで蛙

 今年の夏はとにかく暑かった。この夏の平均気温は、気象庁が統計を開始した1898年以降、最も高い記録だったそうです。熱中症で病院に搬送された方が4万人以上にもなり、日本中がまさにゆであがった状態になってしまったのは皆さんご承知のとおりです。私自身も盆休みに遊園地のチケットを購入するのに炎天下を1時間以上待ち続け、少し熱中症気味の症状になりました。

 今回の猛暑を振り返ってみて、"ゆで蛙"という言葉が浮かびました。この言葉の意味は、蛙を急に熱いお湯の中に入れると熱さを瞬時に感じてすぐに飛び出すのに対し、蛙が最初から水の中にいる場合、水を少しずつ温めていくと蛙は気が付かずにゆで蛙になってしまうというものです。これだけ猛暑になったのだからゆっくりと暑くなったわけではない、とお考えになる方もおられると思いますが、今夏の平均気温の平年差は+1.64℃だったそうです。2℃弱という変化は、一日の気温の変化を考えるとそう大きなものではないというところに今回のポイントがあると考えます。暑いけど何とかなると頭では考えてしまう、何とかなると頑張ってしまう。そのくらいの温度変化なのです。これが10℃ということになれば、皆用心して、十分かどうかは別としても必ず対策をとるはずです。対策を取ろうという気にさせないくらいのゆっくりとした環境変化がゆで蛙状態を生じさせ、場合によっては大惨事を引き起こす危険性をはらんでいることを、今回の猛暑は改めて教えてくれた気がします。

 今年の夏も、確かに環境省熱中症予防サイトなどのメディアを通して注意の呼びかけが行われてはいました。その成果がまったくなかったわけではありませんが、今となっては昔のように感じる新型インフルエンザの大騒ぎと比較すると十分ではなかったわけです。それはなぜだかもうお分かりでしょう。新型インフルエンザは何もなかったものが突然発生したわけですから、大きな変化と捉えられがちになるのです。しかし今回の場合、夏は暑いのが当たり前、それがいつもよりちょっとだけ気温が高いということで、大事だとは捉えられにくくなってしまうものだったのです。

 自然環境を始めとして、事業環境や生活環境など皆さんを取り巻く様々な環境は変化します。その変化量は日々としては小さいのですが、累積されたり臨界点を越えたりすると、いつの間にかゆで蛙状態を引き起こします。私生活の維持向上、事業繁栄のために、そうなる前に何らかの対策を講じることが必要です。そのためには、自分自身が周囲の変化に敏感になることはもちろん、周りのアドバイスを素直に聞いてみることも大切なことです。去年までは、あるいは前回までは大丈夫だったから何も変える必要はない、と思うのは人間としてごく自然な感覚ですし、そのような時にアドバイスを聞き入れるのも難しいものです。伝える方は具体性をもって、聞く方は素直さをもって互いに接することが今、最も求められている気がします。そしてもし変化を感じ取れたら、感じ取れていない人や組織に繰り返し伝え、時には行動で示して導いて行くことが必要です。

 9月も中旬を過ぎ、秋らしい空も広がり、やっと過ごし易くなってきました。だからと言って、喉元過ぎても「暑さ」を忘れることなく、さまざまな変化を感じ、それへの対応を心がけていきましょう。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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