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マイノリティ魂

 2011年が始まった今日となってはすでにずいぶん昔のように感じられるかもしれませんが、2010年に印象に残ったイベントは?と問われて、南アフリカのワールドカップサッカーを挙げる方は少なくないでしょう。ナショナルチーム一丸となっての予選リーグ突破は、リーマンショック以降停滞気味だった国全体を活気付けてくれると同時に感動を与えてくれました。ワールドカップのあと更なる高みを求めた何人かの選手が海外リーグに移籍したり、現在行われている2011年アジアカップでナショナルチームが活躍したりしているのを見ると、日本サッカー界に希望が持てます。

 しかしながら、2010年12月、サッカー代表選手の待遇改善の要望が出され、試合に勝利したときの報酬の増額などを行ったという報道を耳にしました。これを聞いてなんともやるせない気持ちにならざるをえませんでした。というのも、強化費も仕分けで削られている日本の他のスポーツに比べるとサッカー代表選手の環境は断然恵まれているからです。もちろん、プロとアマチュアの違い、選手寿命、世界でのランキングなど選手を取り巻く因子が多いため一概にどうあるべきだと結論付けることは出来ませんし、比較的危険度が高いスポーツであるサッカー選手が怪我をした際の保障を手厚くすることは要望してしかるべきでしょう。ただ、今回このタイミングで報道された主な要求は、ワールドカップにおいてひとつ壁を突破したことで、自分たちは一流、マジョリティであるという意識が高まってしまったのかと感じました。日本のサッカーは世界視野でみれば、まだまだトップレベルではないはずです。結果はあとからついてくるという姿勢でもっと貪欲に挑戦し続けて欲しいと考えます。

 2010年はサッカーに限らず、日本が世界においてはマジョリティではない地位にいることを、COP10などの国際会議や各国との交渉で改めて強く感じた年でした。これらから言えることは、自国、自分はマイノリティであることを忘れてはいけないということなのではないでしょうか。このマイノリティという言葉は、必ずしも弱者という意味で使っているのではありません。おごり高ぶることなく、ハングリー精神を忘れず、長いものにも巻かれないということです。

 一方、このマイノリティ魂を忘れることなく発揮されている方々が日本にはたくさんいらっしゃいます。弊社が発信するメルマガ「イノベーションスピリット」の特集でインタビューをさせていただきました、東京ガスの技術を長年牽引されている前田副会長も、影響の大きい行動原理はマイノリティであったとおっしゃっていましたし、歌手の山下達郎さんも1970年代デビュー前から周りの流行音楽に流されることなく自分のスタイルを貫き通しているそうです。この方々の生き様には日本を牽引していくという情熱を感じます。また、情熱をもったチームだったからこそ実現された、流星イトカワの粒子を採取した「はやぶさ」の帰還は、日本の良い意味でのこだわりの結実であったのではないでしょうか。

 2011年も我々の目の前には多くの問題が積まれていることは間違いありません。是非マイノリティ魂を発揮し、決しておごることなく、挑戦を続け、希望ある未来を切り開いていきましょう。もちろんサッカーのナショナルチームにも良い成績を期待しています。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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