多事想論articles

仮想と現実

 先日、久しぶりにF1グランプリのTV放送を観ました。F1のルールであるレギュレーションも一昔前とは随分と変わっていました。限界までの高速スピードと、超ハイテクのイメージが強いF1の世界ですが、実はレースを面白くするためのルールの追加や変更が頻繁に行われており、これに追従していくことは参加チームにとって大きな負荷となっています。2011年はDRS(ダウンフォース減少システム:直線で一時的に車両の空気抵抗を減らして、前の車を抜きやすくする仕組み)や、KERS(ブレーキ回生システム:ブレーキング時の運動エネルギーを電気エネルギーに変換して回収保存しておいて、スタート時など急加速する時に使い馬力を向上させる仕組み)といった、レース中に数秒間だけ使うことが認められるルールが採用されていました。2009年にも採用されていたKERSは、化石燃料浪費のイメージから脱するための環境保護アピールの一策として導入されたようです。

 この数秒間だけ使うことが許されるというルールはどこかで見た気がしませんか。そうです、TVゲームの世界です。キャラクターが何かのアイテムを獲得すると一定時間だけ巨大になったり高速化したりして得点を荒稼ぎする、という類のゲームがたくさんあります。このTVゲームという仮想の世界でのルール、形式が、モータースポーツという現実の世界でも展開されていることは私にとってすごくインパクトがあり、まさにSF映画やアニメの世界が現実化されているということに感動しました。

 SF映画やアニメは、ドラえもんの主題歌のように、こんなこと出来たらいいな、面白いなという現実の世界では出来ないことを仮想の世界で実現し、映像作品として作られます。その作品は、初めは驚きや羨望として捉えられますが、すぐに科学者や技術者はその作品をヒントにして、自分たちの現実の世界で実現しようと知恵を絞り続けます。知恵を絞った結果、いわば仮想の世界から現実の世界へ戻って来ることができ、さまざまなことが実現されてきました。たとえば宇宙ロケットや人体に入って撮影するカプセルカメラなど、枚挙に暇がありません。そしてまた、現在の技術では実現することがまだできないさらに進化したロケットやカプセルカメラが、現実から仮想へと繋がるSF映画やアニメの中で作られていくのです。

 今、厳しい現実が我々日本人の前には突きつけられており、ともすると仮想の世界に思いを馳せにくい時かもしれません。とはいえ、仮想と現実の世界を行き来することは、世の中の発展に絶対不可欠なことです。仮想の世界での喜び、感動をあなたの仕事、あなたの生活の中で実現するとなるとどういうことなのか。時にはこんな考え方をしてみることが豊かな世の中の創造に繋がるのではないでしょうか。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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