多事想論articles

目玉焼きをおいしくする

 あるテレビ番組で見たクイズです。醤油と一緒にかけると目玉焼きが一段とおいしくなる調味料は何でしょうか?料理を日ごろからしている方には常識レベルの問題なのかもしれませんが、そこそこの料理家でしかない私は、残念ながら答えがわかりませんでしたので、いろいろな調味料を連想しました。 醤油とくれば味噌、醤油のしょっぱさを引き立たせるための甘さということで砂糖など、答えの候補はたくさん挙がりましたが、正解はかつお節でした。かつおのうまみ成分はイノシン酸という化合物で、醤油の主となるうまみ成分であるグルタミン酸と合わせることで、お互いのうまみを引き立てあう為、うまみの相乗効果がもたらされるからです。 また昨年、日本に明るい話題をもたらしてくれた、鈴木博士と根岸博士のクロスカップリングは、合成することが困難な、異なる有機物同士を結合させ、新たなる有用物質(医薬品や化学材料)を生成する技術であり、個々の有機物の特性を生かすことで新たな価値を創生します。 ノーベル賞と目玉焼きを一緒にすると両博士から怒られそうですが、これもまさに相乗効果と言えるでしょう。

 このような効果をもたらたしたり、発見したりする際のポイントとは何でしょうか。まず、最も重要なのが、相乗させることで何を達成したいのかという目的意識ではないでしょうか。これは、もっとおいしくしたいとか、もっと便利にしたいとかと言う思いそのものです。その思い無くしては何も始まらないでしょうし、チャレンジの継続はおぼつかないでしょう。 それに加えて、それぞれの特性を徹底的に詳しく知る、探求することも必要です。特にクロスカップリングのような、高度な発明、発見の場合にはその対象の探求だけにとどまらず、周辺技術も掘り下げねばならないでしょうし、時には専門外の技術にも視野を広げてみることが必要です。 味の合成の場合などは成分を知らなくても、「ちょい足し」と言う言葉が有るように、たまたま合わせてみたら偶然おいしくなったというようなことも少なからずあります。 個人で楽しむレベルであればそれでもいいのでしょうが、製品化や、その技術を応用していくことを考えた場合には、なぜそうなのかの理由が分からない、すなわち根拠が不十分の場合には、再現性が乏しかったり、外部環境や、ノイズの変化で簡単に効果が薄れてしまったりすることがあります。 こう考えてみると、目的意識・思いと、対象・根拠の探求が相乗効果を生む2大要素と言えるのではないでしょうか。

 鈴木、根岸両博士は、この2大要素である思いと根拠の探求を最大化し、持続されて、偉大なる功績を残されたと考えます。しかし最近、様々な産業界の方から、社員の思いが感じられないとか、根拠の探求が不足してきているという話を聞くことがとても多くなっています。 新たな価値を世の中にもたらすことで、日本は成長してきたはずですので、2大要素が欠落してしまったとしたら、日本の将来はお先真っ暗となってしまうことでしょう。もしその兆候が皆さんの周囲にも感じられるのであれば、一刻も早く流れを変えなければなりません。 人間も見方を変えれば化合物であり、日本人は特に筋がいい素養を兼ね備わっているはずですから、クロスカップリング反応における触媒として使われたパラジウムの役割をあなたが果たし、ぜひ活気ある組織、企業を創って下さい。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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