多事想論articles

ブームと受け皿

 最近の健康ブームで、走っている人や自転車に乗っている人を見ることが数年前と比べて格段に増えました。走るスピードは、皇居の周回コースではランナー渋滞によりマイペースで走れないという話を耳にする程度なので、走る人が増えたことで事故が大幅に増加したということはあまりないと思います。これに比べて自転車の問題は深刻です。最近は台数ばかりでなく、車輪にブレーキが付いていない車両や、猛スピードで走行するマナー違反も増えているようで、自転車が過失割合の大きい「第一当事者」になった交通事故も多発しています。 この状況を受けて、先日、自転車通行可とすることができるという歩道幅の規制基準を従来の2mから3mへ厳しくするという通達が警視庁から出されました。

 この通達は、原則的には基準以下の狭い歩道を自転車は走ってはいけないというルールを知ってか知らぬか我が物顔で走行している多くの自転車に対しては無力といわざるを得ません。通行可にしてよい歩道の幅を2mから3mにしても道路交通法が変わったわけではなく、掛け声だけでは効果が期待できないことは容易に推測されます。道路という受け皿に自転車というものが増え続け、歩道にあふれ出して暴れているという状況が改善されることは一向にないでしょう。

 先の状況は、個人レベルで考えてみると狭い部屋にものをどんどん購入して持ち込んだ結果、入りきらなくなった状況といえます。この場合は広い部屋に引っ越すか、ものを捨てる(減らす)かのどちらかを選ばねばなりません。自転車問題に対してはどうすればよいかというと、これからのエネルギー問題なども勘案し、自転車の数が今後も増えると予測するのであれば、社会インフラとして自転車走行路を整備するしか手はないのではないでしょうか。 増え続けるものに対してはその受け皿を増やすしかないわけですが、インフラの整備は投資が必要な上、利害関係者の思惑なども絡み、難しい作業であることは間違いありません。

 とはいえ、今までの様な掛け声や、ちょっとした改善では済まないことが自明であれば、早め早めに手を打っていくしかありません。自転車走行のためのインフラ整備がどれほど進んでいるのか、定かではないものの、先週歩いた大阪の歩道は、自転車が走行するエリアと歩行者が歩くエリアが色別で指定されており、地域によっては受け皿の整備が進んでいることも実感できています。また、世の中を見渡すと、社会インフラの整備が確実に進んだものはいくつも見られます。急速に進んだ例としては電車の駅のバリアフリー化が挙げられます。現在、利用者5,000人/日以上の駅の90%以上が段差解消され、10年前の3倍にも達しています。 この急速な変化は、国、地方自治体、鉄道事業者が、受け皿に対してのしっかりとした目標共有と協調があってこそだったと考えます。

 あなたの身の回りでも、世の中においても、減らすことができずに増えるもの、増やしたいものへの受け皿は用意しなくてはなりません。何事に対しても、その場しのぎの受け皿が限界に達する前に、一つ上、一つ先を見据えた根本的な次なる受け皿を準備できるようにしたいものです。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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