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真似事は得意?

 6月1日、文部科学省は、高校を2年間で卒業して大学入学資格を得られる「早期卒業制度」を創設する方針を決めたようです。早期卒業制度とは、いわゆる飛び級制度のことで、日本でも、1998年以降千葉大学などいくつかの大学で実施されていましたが、高校中退扱いになる上、手続きが複雑などの理由で、全国的な広がりはありませんでした。国際競争力の低下、日本の苦戦というようなニュースをここかしこで耳にする昨今ですので、その打開策、教育改革の一つという位置づけでの創設のようです。

 2年間で高校卒業の資格を与えるというこの飛び級制度は、アメリカ、イギリス、中国などで導入されていることもあり、いわゆるグローバルスタンダードに近い制度です。グローバルスタンダードへの対応というと聞こえは良いのですが、大義名分だけが立派で、形だけをガラパゴス化した日本にそのまま持ってきていいのかははなはだ疑問です。たとえば、詰め込みを非とし、20数年前に持ち込まれた「ゆとり教育」の導入背景には、「日本人は真似は得意だが、独創性のある人材を育てなければならない。」という命題がありました。この策として北欧諸国の制度を真似たといわれていますが、見事に失敗したと言わざるを得ません。制度だけを持ってきて、それを構成する教師、支援組織などはそのままなわけですから失敗も必然です。「真似事は得意だ」の前提で真似た制度の失敗は、実は真似も得意ではなくなってしまったということの証明なのかもしれません。

 教育関係ではほかに、大学の秋入学化が今ホットな検討課題となっています。こちらも、国際化を目指しての制度変更です。大学にとって、第一に留学生を集めるには好都合であることは間違いありませんが、高校を卒業してから半年後に入学し、やがて社会人となる日本人の学生のために本当になるでしょうか。大学だけではなく、国、企業も含めて、本気に取り組まねばならない懸念事項は山積みです。

 制度改革は、組織の成長のために絶対に必要なことであるのは間違いありません。しかし、制度という箱モノをどこかの模倣で持ってきてもうまくいくことは本当にまれなことです。企業経営においても、アメリカ流の経営指標であるとか、成果主義などを持ち込んでは見事に大失敗してきました。もともと人件費カットのために持ち込んだということであれば、完全な失敗ではないかもしれませんが、愚策であったことは疑う余地はないでしょう。我々は歴史から学ばねばなりません。国であれば国民性、環境など、企業であれば、企業独自のカルチャー、強みなどを十分に考慮した上で、制度改革を推進することが必要です。そして、策を講じた後は、有効に機能するまでチェックする。機能しないのであれば、有効に機能するためのネクストアクションを取るか、芽が出そうになければ潔く止める。この一連のことが、当たり前の様ですが、最も出来ていない、最も忘れてはいけないことであると考えます。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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