多事想論articles

企業DNAの再生

 大阪企業家ミュージアムにて「シャープ創業100周年」の特別展示をやっているというニュースを耳にし、大阪出張の移動の合間に展示を見る機会を得ました。ホンハイとの提携難航や、一部取引所での上場廃止など、今や日本製造業の苦境の代名詞となってしまっている最中、創業100年の特別展示が行われるのは誠に皮肉なものです。
 あなたは、シャープと聞くと、どんなイメージを浮かべるでしょうか?最近では液晶TV、プラズマクラスター、少し前だとPDAのザウルス、ガラパゴスなどが挙がると思います。私にとって最も強い印象として残っているのは、90年代初頭に発売され大ヒットとなった、ビデオカメラ「液晶ビューカム」です。 当時AV事業に従事していた私にとって、液晶のファインダー兼再生画面が付いたその後のハンディビデオカメラの主流となった製品の鮮烈なインパクトが残っています。

 目の付け所がシャープという、キャッチフレーズ通りの製品を出し続けて来られた理由の根幹を、今回の特別展示で、創業者である早川徳次氏を詳しく知れたことで理解することができました。それは、幼少時代から不遇な環境にさらされ、関東大震災で家族を失いながらも、社名の由来でもあるシャープペンシルに代表される、「他に真似される商品を創る」という社のDNAというべき理念を何ものにも負けずに貫き続けられたからにほかなりません。一言で言ってしまうと簡単に聞こえますが、語りつくせないほど深すぎるものですし、このDNAは再生が非常に難しいものでもあります。そして、このDNAは1980年の早川徳次氏の死を境に、急速に失われてしまった気がします。急速にと言っても、死後暫くは早川徳次氏に直々にDNAを注入された方々が、社の中枢に沢山おられたはずですので、その後の革新的製品の開発は続けて来られたのだと思います。しかし、そういった方々が少なくなるとともに、次の世代にうまく伝わらず、世界情勢など取り巻く環境が変わる中、DNAは失われていってしまったのではないでしょうか。

 どうすればシャープは再び輝きを取り戻せるのか。このような事を考えていた時、iPS細胞の研究者である山中伸弥教授がノーベル医学・生理学賞を受賞した明るいニュースが飛び込んできました。受賞はマウスの皮膚細胞に人工的に4つの遺伝子を導入することで組織を再生する細胞をつくった功績によるものです。再生医療の世界における光明ともいえるこの技術、遺伝子はDNAによって構成されていますので、再生を可能とする肝となる遺伝子を見つけ出せたことも大きな要因だったと想像します。

 そしてまた、企業組織、企業人に考えを戻してみると、企業においてもこの4つの遺伝子のようなものがあるのではないでしょうか。それを見つけるのは難しいことなのかもしれません。しかし、変わりゆく環境の中でも、たとえ道は険しくとも、シャープのような元来良いDNAを持っていた企業は、必ず再生できるに違いない。と日本製造業の明るい未来に思いをはせた次第です。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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