多事想論articles

プラズマの終焉

2013.4.4

 アベノミクスでの株価上昇、一部企業の年間一時金の満額回答。日本という国が、いい意味で活気づいて来ている中、苦戦が続く家電業界において、パナソニックがプラズマディスプレイパネル(PDP)とプラズマテレビの生産から2014年度をめどに撤退する方向で検討に入ったとの報道が、3月18日付の諸新聞からありました。 一昔前は、「発光体が光って直接色を出すことで色再現性に優れ、大型化に強いとされていたプラズマ」と「軽さ、省電力に優れる液晶」とで薄型テレビとして話題を提供し、市場を牽引してきましたが、液晶の色再現性の向上、大型化が急速に進んだことで、プラズマとしての優位性が失われ、ついに終焉を迎えることになったわけです。

 この記事を目にした時、2008年のコンシューマエレクトロニクスショー(CES)の一場面、パナソニックからのスピーチの中での、実物大の像が映せる100インチのプラズマディスプレーの試作品をステージに運び、映像を映し出したシーンが脳裏に浮かび上がりました。CESは毎年一月にラスベガスで行われるコンシューマエレクトロニクスの世界最大規模の見本市で、この年は、マイクロソフトのビルゲイツが引退を表明したあとのキーノートスピーチがあり多くの参加者を集めていました。 確か、ゲイツのスピーチの次くらいの順番でのこのプレゼンテーションは、パナソニックの威光を示すのに十分な場でした。 しかし、5年前にこれだけの勢いを持ち、投資をしていたデバイスが、あまりにも短すぎる期間で終焉を迎えねばならなくなってしまったことは、劣勢となったメディアのライフサイクルの短さを思い知らされるとともに、そこまでのスピード感で変化する世の中になってしまったことを真摯に受け止めねばならないと痛切に感じざるを得ませんでした。

 CESで大プラズマディスプレイパネルの発表があった2008年といえば、以前本コラムでテーマでも取り上げた、レーザーディスク(LD)の生産終了の時期でもありました。当時のLDの終了は、ビジネスとしても十分な役割を果たしたのちのメディアの新陳代謝という感が強かったので、次の準備はそれなりに出来ているということを記述したと記憶しています。また、パナソニックもプラズマだけでなく、液晶テレビも生産していることもあり事業としての痛手は少ないという見方はあります。 しかし、終了という宣告は、LDにしても、プラズマにしても、その道一筋でやって来た技術者の皆さんの心情を推し量ると何とも言い難いものがあります。

 このような厳しい状況とはいえ、落ち込んでいる暇はもちろんありません。4月となり新入社員を迎えた各企業では、逆風の中にチャンスありとの力強いメッセージがトップから発せられています。このことを、決して空元気ではなく、明日へつながる本気の宣言として受け取りました。 景気の上向きはそれを後押ししてくれることでしょう。そして、そういう本気の企業をこれからも支援し続けて行きたいと思います。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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