多事想論articles

信頼回復

 今回の参議院議員選挙期間中、候補者が論点として最も多く口にした言葉は、「原発」との記事が載っていました。原発は、非常にホットな話題なので、本コラムに記すのは、少しはばかられたのですが、逆に今だからこそという思いもあり今回テーマとして取り上げました。 

 7月8日、原子力発電所再稼動のための新規制基準が施行されました。それに伴い、複数の原子力発電所から、安全審査の申請が行われました。審査の完了までにはまだ期間を要するとの事ですが、原発事故から2年数ヶ月にわたり、広範なリスク対策に取り組んだ結果として、膨大な申請ファイルが印象的でした。 

 先日、ある原子力発電所の現場の方にお会いする機会がありましたが、現場の方々は、本業復活に向けて非常に真摯に業務に取り組まれていました。安全基準に則り、大規模な自然災害が発生した場合にも、稼動が継続できる。万が一稼動がストップした場合も、安全に停止し、停止状態を維持できる。これらが、科学的、論理的に証明できたとしたら、再稼動し、安全なる稼動を継続するということは考えられます。 

 しかしながら、原発再開に関しては、各種メディアの取り扱いを見ていると、新潟県知事の半ば却下と取れる発言や、基準が甘い・横並びの対応で本気度が見えない等々、非常に厳しい論調の報道が目立つ気がします。このような趨勢から推察すると、再稼動認可への道のりはまだ険しいのではないでしょうか。失敗が大きかった場合、再度行うことに対しての障壁は高くなり、たとえ論理的、科学的にクリアできたとしても、感情的な面での承認が下りにくくなります。先の原発事故の場合には、事故発生の原因が慢心によるものであったこと、何万人もの方が避難せざるを得ない状況に追い込まれたり、事故対応をめぐる本社の方々の対応があまりにもひどかったりなど、障壁を高くする要素が多く、最も高い壁である感情的部分の"信頼"を大きく失墜させてしまったといわざるを得ません。その信頼を取戻して初めて、道は開けるのではないでしょうか。 

 あなたにも、長い期間かけて築いた、誰か(何か)との信頼を失った経験があると思います。あるとしたら、もう取戻すつもりもないか、取戻したくても未だに取り戻せていないか、取り戻せたとしても長い月日がかかったはずです。信頼は回復するのが非常に難しい、言い換えれば失ってはいけないものです。信頼を失うのはあまりにも容易です。もうこれ以上の信頼をお互いなくさないために、日本人がもう一度、互いに信頼について心底より考え、行動してこそ未来が開けてくるのではないでしょうか。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

資料ダウンロードはこちら