多事想論articles

健全なコミュニケーション

 2013年年末恒例の流行語大賞が発表されました。今年は、流行った言葉が数多くあったため、発表には例年以上に注目が集まりました。その結果はご存知の通り、ひとつに絞られることなく、「今でしょ!」「お・も・て・な・し」「じぇじぇじぇ」「倍返し」の4つが大賞に選出されました。まぁ、確かに絞れませんよね。4つの言葉に共通しているのは、いずれもその言葉を聞くと、情景が思い浮かぶことと言葉のもつ意味が鮮明に理解できることです。(「じぇじぇじぇ」の場合、ドラマを観ていなかった方にはいったい何のことか見当はつかないでしょうが。)間違って捉えられることが決してない言葉であるといえるでしょう。

 これらの言葉を引用してのコミュニケーションは、非常にうまく行くことが多いです。意味が明確な言葉を使うことで受け手が都合よく捉えてしまう、逆に悲観的に捉えてしまう、といったブレの幅が小さくなるからです。定量的な表現が重宝されるのも全く同じ理由として頷けます。逆に曖昧な言葉、聞きなれない言葉を使うとコミュニケーションが不全になります。あえて難解な言葉を使って博学ぶりをアピールされるような人を時々見かけますが、そういう人はコミュニケーションをとろうというのではなく、自分の知識をひけらかすことが目的ですので、もはや相互理解のためのコミュニケーションとは言えません。ですので、健全なコミュニケーションを目的としていないため、多少不全になっても問題ないでしょう。(相手にとっては問題、または迷惑かもしれませんが)

 しかし、曖昧な言葉、難しい言葉を使わないようにしようとしても、結果としてコミュニケーションが不全になってしまった場合には、まずい状況を引き起こしてしまう可能性があります。今年フィリピンを襲った巨大台風の件はその典型です。被害が甚大であったことは、記憶に新しいところだと思います。台風襲来時、地元の防災関係者はストームサージという言葉を使って避難勧告をしたそうです。ストームサージとは、低気圧による海面の吸い上げ・吹き寄せ効果のことだそうですが、図解つきで丁寧に説明されない限り内容が分かりにくそうな言葉です。防災関係者は、事実を簡潔に一言で正しく伝えようとしたのでしょうが、地元の方々はその意味を十分に理解できずに、都合よく捉えてしまった(というかその重大が伝わらなかった)ため、逃げ遅れた、または逃げなかった犠牲者が多数おられたとの報告がありました。決して簡潔ならば良い、短いワードなら良いというわけでもないのです。

 緊急な行動を喚起する場合には、意味が明確で短い言葉で取るべき行動と、その行動を取らねばならない理由を伝えることです。少し時間に余裕がある場合には理由の部分に時間をかけて、納得性を上げるという事も必要でしょう。長期的な事柄であれば、その大切さをストーリー立てて伝えていくことで理解が深まります。いかなる相手とでも、どんな時でも、緊急性と重要性を十分に考え抜きながらコミュニケーションを健全に成立させたいものです。

 今年もITIDのコラムをお読みいただきありがとうございました。新しい年が皆さんにとってすばらしい年となることをお祈りします。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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