多事想論articles

問題ない品質

 今年の後半は、食品業界での食品の誤表示(虚偽のものを含む)があとを絶ちません。家の近くのスーパーでも、その影響からバナメイエビなどと、今まで聞き慣れていない銘柄が表示されたパッケージを目にします。この誤表示自体への記事、コメントはメディアに溢れているので、皆さん十分にご承知でしょうから今更申し上げるつもりはありません。ここでは、一連の騒動の中で、誤表示をしたあるホテル責任者の「品質には問題がないから、返金はしない。」という発言を取り上げたいと思います。本件、返金する、しないは企業のポリシーや経営事情等によって対応が異なるものなので、とやかく言うつもりはありません。気になるのは、「品質には問題がない」という部分です。

 品質という言葉は誰もが聞いたことのある言葉でありながら、その意味を正しく、かつ深く捉えている方は少ないのではないでしょうか。品質は、(1)人間に無関係に定められ、結果として誰からも同じに見えるもの、(2)提供する側が作りこむ、逆に要求する(顧客)側が感じるものとして、関わる人間の立場などによって到達度や満足度が異なる、主に定性的なもの。この二つに大別されます。食品であれば腐っていない、食べても体に変調をきたさないというのは前者として定められる要素でしょう。それに対し、おいしいものの代名詞のような産地やブランドに関しては、そこに価値を感じている人(価値感、欲求レベルによっては感じない人もいる)は、産地、ブランドが独自に持つ、作るプロセス(製法)、取り巻く環境までを含めたものに対価を払うわけですから後者の品質です。要求する価値が実現されていなければ品質は問題となります。こう見ると、多方面で流通している偽物ブランドバックは、偽物と明記して販売していて、顧客側も偽者と分かって買っていますので、提供側の提供品質レベルと、顧客側の要求品質レベルが合っているので問題は生じないでしょう。ただ、決して高品質とはいえません。ホテルのメニューに話を戻すと、お客さんがおいしく食べて、喜んで帰ったという結果のみで品質を語ってはならないでしょう。誤表示をしてしまうメニュー作成プロセス、それらに気がつかない関係者の知識レベル等を含めて品質が低かったということを認識しなければいけません。

 食品同様、会社、仕事にも品質があり、日本経営品質賞なる賞も1995年に制定されて以来続いています。この賞は、経営状態がいかに良い状態であるかを示す申請書類をそろえて提出し、それを中心に審査されます。2~3日の現地審査もあるものの、結果としてのドキュメントによって品質が語られ、評価の中心にならざるをえません。こういった賞自体は悪いことでは決して無いので、今後も評価方法を改善しながら継続していくことと思われます。しかし、評価の限界もあるわけで、現在のドキュメントには都合の悪いことが書かれるはずも無く、実態を十分には表していないドキュメントとなっている、もしくは結果を出すために、審査用にかなり無理をしたプロセスで目先の結果の帳尻をあわせているという面もあるのではないでしょうか。仕事に関しても、ISO等の監査や、社内政治家(現場や社外で必死に戦っている人ではない、社内を評論する、重箱の隅をつつくことを仕事と思っている人)の影響で、良い結果としてのドキュメントを作ることが良い品質という風潮がつくられている会社、組織を見かけます。非常に残念なことです。

 もちろん、結果に結びつけられない会社は存続できません。また、目に見えやすい表面的な結果のみで判断してばかりだとこれも長くは続きません。その裏にある結果にたどり着くまでの姿勢・行動・意識、また、仕事のプロセスや取り巻く環境にも目を向けてください。そして、結果主義、ドキュメント主義の波に飲まれることなく、本当に問題ない品質を探究しながら、真の強いチーム・会社を創っていって欲しいと思います。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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