多事想論articles

「21世紀の資本」の裏側に見える日本

 「21世紀の資本」が、著者:トマ・ピケティ氏の来日などもありブームとなっています。内容の解説は他数出版されている解説本に譲りますが、門外漢ながらひとことで表現してみますと、資本収益率が労働所得成長率よりも高くなり、格差が拡大している現状と、格差是正のための対応策が記されている、とても分厚い本です。全人口の1%の所得が残りの99%の所得を上回っているアメリカに比べれば、未だ日本の格差はそこまで深刻ではないのではという印象を持ちましたが、日本はその典型だそうです。そう言われると、日本でも、マスコミがすでに極端な取り上げ方をしていますし、様々な方面で格差是正の動きが高まる可能性があります。このような流行もの、はやり言葉に安易に乗じてしまい、己の真理や国の将来を考えることなく、目先の欲、優先で行動していることが多いことが、むしろこの何十年かの日本の典型ではないのかと感じてしまった次第です。

 振り返ってみますと、戦後復興から高度成長の時代は、世界に追いつけ追い越せで、現場主義やすり合わせ、助け合いという日本独特の強みを発揮し、発展を続けてきました。
 しかし、1968年にGDP世界第2位となり、10年20年経ちトップランナーと言える立場なった後、自らの道を切り開けず、EVA*、MBA**、など半ば盲目的に欧米の制度を持ち込んだ(持ち込まされた)末に、良い日本の特徴を無くしてしまった感が満載です。具体的には、EVAの導入により、投資効率が重視される余り、長期的な研究開発がやりにくくなり、人材育成の世界では、欧米の成果主義を導入した末、挑戦する意欲を減退させるようなことになってしまった会社も数多くあります。こういったものは導入した一時はよさそうに見えるものの、時間が経つに連れて、内面から会社、組織を蝕んでいきます。今更ながら、MBAなどはイノベーションにとっては邪魔でしかないと、やっと発言している有識者もおられますが、一度視野が狭窄化してしまった会社、社会は中々戻ることは出来ず、次々と海外発の3文字略語や、キャッチフレーズに反応し、右往左往することになります。

 混迷の時代、本当に信じ難いことが起こってしまう世の中で、各国、各社がネット化、グローバル化のもと色々と仕掛け、押し寄せてきます。その避けることは出来ない波にフォロワーとして乗っているだけでは、いつかその大波にのまれて、海の中でぐるぐる回るしかありません。横文字のバズワードに安易に乗せられずに、自分は関係ないとかではなく、私腹を肥すのでもなく、少なくとも組織全体が、さらには子供の世代の日本が、これからどうしたら国際社会の中で健全に生き続けられるのかの視野で考えぬくことが必要です。そこには賢人が用意してくれている答えはありません。考え抜いたことを頼りに、輪を広げていきながらよりよい答えに近づくために行動していきましょう。

*EVA(Economic Value Added: ファイナンスの発想に基づく経営指標)
**MBA(Master of Business Administration:経営学修士)

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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