多事想論articles

良い流れを保ち続ける

 先月の日経ビジネスで「ソニーが変われぬ10の理由」という特集が組まれていました。現在様々な改革に取組んでいるものの、中々昔の輝きを取り戻せない状況に対して、大物OBからのコメントを中心に綴られたものです。OBが引退後にしゃしゃり出るのはいかがなものかとは思いますが、それは置いておくとして、一度このような状況に陥ってしまうと、抜け出すのが非常に困難であるということを物語っています。世の中に革新的なものを長きに渡り出し続けてきた会社が、出せなくなってしまったのかの理由も幾つか綴られていますが、勝ち組意識の蔓延や、短期的な成果を重視する余りに、長期的な投資が出来なくなったということが大きな要因のようです。

 企業の経営スタイルや風土は、時間の経過と共に変化していきそうなものですが、悪い流れに一瞬で変わってしまうことがあります。組織であればおかしなルールをひとつ作ってしまうとそうなります。たとえば、前向きに頑張ろうとしている職場で、現場の負荷を極度に増やすような、誰のためなのかわからない頻度の高い報告などがルール化されると会社に対してのロイヤリティは一瞬にして下がってしまうでしょう。一瞬にして下がってしまいますが、それをまた取り戻すには多大な労力、時間を要します。

 これらの例より共通して言えるのは、調子がいい時にこそ、流れを止めてはいけない、チャレンジャー精神を失ってはいけないということです。誰も意識して良い流れを止めたいとは思っていないのでしょうが、わずかながらの奢り、心のスキが生じてしまうことで、よい流れは意外にも簡単に止まってしまいます。一度失ってしまったチャレンジャー精神を再び取り戻すことは容易なことではなく、いわばガラスのコップを割るような不可逆なプロセスに近いものであると考えます。そうなってしまってから慌てても後の祭りです。まさに、「変われぬ理由」が沢山あるからです。良い流れを取り戻すには莫大なエネルギーを必要とし、時間がかかります。

 このように、良い流れは失ってしまうと取り戻すことが非常に困難なものですので、良い流れを掴んでいるのであれば、それを保ち続けることが肝要なのは言うまでもありません。良い流れを保つには、同じことを繰り返すのではなく、自分たちの強み、弱みを認識しながら、変えるところと変えてはいけないところを判断し、チャレンジし続けることしかないのではないでしょうか。日本企業の回復が聞かれるようになってきた今だからこそ、それで安心することなくチャレンジしていきましょう。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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