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アドバイスのIT化

 服売り場でいろいろと手にとっている時、店員に「これはお客様にお似合いです。」などとアドバイスされた経験は誰でもあると思います。センスのよさそうな店員に奨められたことで購入する気になることもあるでしょうし、購入後もよい気分でその服を着られるかもしれません。このような、個人の相談を受けたりアドバイスしたりする仕事は、価値ある仕事として位置づけられてきました。それが最近では、人を介さずに相談を受けてくれたりアドバイスをしてくれるサービスが増えてきています。たとえば、WEB上で質問に回答していくと適した化粧品を提案してくれるサービスや、人の表情を読み取って適した飲み物をリストアップする飲料の自動販売機などです。またネット通販などでは商品を奨められるのは当たり前です。データ解析技術の進歩などにより、人を介さないIT化された相談、アドバイスは今後どんどん増えていくことは間違いありません。

 この流れで、相談、アドバイスの仕事がどんどんIT化されていくと、人的にアドバイスを行う必要がなくなるのではとも考えられます。データ解析のロジックさえ組めれば何でも出来ますよというわけです。確かに人の表情、体型などのパラメータや、影響を及ぼす環境情報も容易に取得できるし、それらの情報を元に、たとえば服売り場であればサイズはもちろん、それなりに合いそうな色、デザインを特定するのはそう難しいことではないでしょう。

 とはいえ、相談、アドバイスを行う仕事がすべてITに置き換わることは無いと断言できます。なぜならば、人は唯一の最適解を求めるのではなく、パターン化し得ない無限の可能性を拾うことができるからです。服売り場の場合だと、売り場に置いてある服は有限ですが、着こなし方、小物との組み合わせのパターンを考えると無限に近いでしょう。また、この仕事が無くならない大きな理由がもうひとつあります。それは信頼です。つまりその道に詳しい人が、コミュニケーションを通して顧客にベストであるものを提供してくれるという安心感です。それは時には、今まで着たことのない服を着てみようというような、背中を押してくれる勇気や自信を与えるということにもなるでしょう。これが日本のおもてなしの心ではとも思います。

 相談、アドバイスと言えば、会社の上司や先輩の重要な仕事でもあります。もし杓子定規の対応しか出来ない、またはしない上司であれば価値がありません。このような場合、笑い話でもなんでもなく、IT化してしまうのもありかもしれません。しかし、このような状況に陥ってしまっては未来がありません。自分のアドバイスがIT化されることの無い様、経験者としての知見を磨き、相手の内外面を見る力を養って下さい。そしておもてなしの心を持って伝えてください。信頼関係が構築され、取って代わられることのない無二の関係が築けるはずです。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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