多事想論articles

いい部屋に住めばモテる

 いい部屋に住めばモテるとは限らない。
 しかし、モテる人はだいたいいい部屋に住んでいる。

 これは、住宅紹介・提供会社の電車広告に書かれていた一文です。このキャッチコピーに惹かれ、いい部屋に住みたくなったとしたら、完全に広告主の狙い通りの思考であり、とても良いお客様といえます。この一文は、"いい部屋"と"モテる"の相関関係を絶妙に言い表しています。何が絶妙かというと、"だいたい"という表現で、絶対ではないということを示していると同時に、前半の文で、"いい部屋"と"モテる"には因果関係は無いことを予め伝えているからです。これならば、「いい部屋借りたのに全然モテないよ。」というクレームを受けることありません。でも、何故かいい部屋に住みたくなったりします。

 このように、良心的?に因果関係の無い相関を活用するのであればどんどんやればよいわけですが、因果関係を持たない偶然(例:風呂に入らなかったら、次の日に宝くじが当たったから、風呂に入ることはやめよう)や擬似相関(第3の要素を介して結果的に相関していて因果関係は存在しないこと。例:アイスクリームが売れると水難事故が多発するからアイスは食べてはいけない)を信じてしまったり、信じさせてしまったりすることがあるかもしれません。ここで提示した例は、それほどひどいものではありませんが、因果関係が無いにもかかわらず、ダイエット効果抜群などの言葉に引っ張られ、自分に合わない高額商品を買い続けるといったような、人を不幸に陥れるような事態も実際起こっています。

 では、このような事象にだまされない、勘違いしないようにするにはと言うと、正しく物事の関係を見抜く習慣を養うしかありません。子どもを見ていると、好奇心旺盛に、なぜ、なぜと本能的に何度も聞いてきて、大人を困らせることがあります。このように、物事の関係性を見抜きたいという欲求は人間の本能として持っているので、その気になれば、年をとってからでも、その能力は鍛えることはできると考えます。たとえば、日々の天気や体調などちょっとした変化に敏感になったり、起こったことの原因を探求する癖をつけることです。

 最近は、ITの進歩でビッグデータなるはやりワードに代表されるように、数限りないパラメータ間の相関関係の算出が容易に行えるようになりました。そんな世の中であればあるほど、人間には事象の原因、物事の関係に関して感度を高くし、見た目の相関を盲目的に信じるのではなく、真の因果関係を紐解くことに着眼していかねばなりません。益々便利になる世の中に、それが改めて求められるのではないでしょうか。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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