多事想論articles

改革テーマの重要性

皆さんは、"改革"と聞いたときにどんな取り組みを思い浮かべるでしょうか?明らかに悪いことを良くしたり、出来てないことを出来るようにしたりすることは改革のテーマとして比較的捉えやすいと思います。組織の風通しが悪いから組織改革でフラットにしたり、組織横断チームを作ったりする、不正粉飾があったから、社内の統制を強化する等々、いずれも改革とも呼べる取り組みです。その会社にとってやらねばならないことが明白であると、改革のテーマも、あまりもめることなく決まるでしょう。

一方、それをやるべきか否かの判断が難しい改革もあります。社内のコンセンサスが取れないようなテーマに対する取り組みです。それは二つのパターンがあります。ひとつは、今までその会社にとって、皆が当たり前に良いと思っていたことを改める改革。もうひとつは、時代の変化に流されたり、対応したりした結果、組織として忘れ去られつつあるもの、しかし、本来変えてはならないものに回帰しようとする改革です。良いと思っていたことを改める、変わってきたものを元に戻すことが、果たして正しいことなのかどうかが、社内でも意見が分かれるところでしょう。当然、反対派も多く存在する可能性が高いわけです。

最近の例では、ソニーにおいてのストリンガー会長の取り組みがあります。今まで家電市場を席巻してきたソニーらしさを端的にあらわした「like no other」をも変え、退路無きソフト路線への舵きりを行うというものです。この取組みは、「自由闊達で愉快な工場」「いたずらに規模を追わない」「技術者個人の能力を最大限に発揮する」という、今まで多くの成功を収めてきた、故井深大氏の設立趣意書に当たり前に書かれている風土からの脱皮のようにも聞こえます。一方、「スーパードライ」の大ヒットにより1998年に、シェアNo.1となったアサヒビールは、それから約10年後の今年、当時の「キレ」、「鮮度」をもう一度思い出そうと言う回帰型の改革に踏み出したようです。

近年苦戦が伝えられる両社にとって、これら二つの取り組みは前述のそれぞれパターンにあたり、いずれも改革と呼ぶにふさわしいものだと捉えたいと思います。しかし、取り組み自体が仮にうまく行ったとしても、結果として会社の勢いを取り戻し、成長が出来るかどうかは分かりません。その成否は、改革のテーマとして捉えているものが、そこへ留まってはいけない成功体験なのか、変えてはならぬ信条のようなものなのか、どちらなのかで、残念ながら半ば決まってしまっているからです。両社の取り組みがどちらなのかは、我々は支援しているわけではないので定かではありません。両社の製品の一愛好者としては成功を祈るのみです。 環境変化の激しい昨今、各社の改革推進者の皆様は、兎に角、まずテーマを見極めることに多くの力を注いで頂きたいと思います。テーマを見誤った挙句、痛みを伴った取り組みを敢行したとしても、残るのは痛みだけとなって欲しくありません。反面、険しい山でも登るべき山さえ間違わなければ、登りきった時には、きっとすばらしい眺めが開けていますから。

執筆:北山 厚
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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