多事想論articles

「魔法の道具」

 今回ほど道具に注目が集まるオリンピック代表選手選考はなかったはずです。

言うまでもなく、競泳で着用するスピード社のレーザー・レーサーのことです。
もしかすると本番のオリンピックでは、選手以上に誰がレーザー・レーサーを着用しているのか?が話題になってしまうかもしれません。 そして、レーザー・レーサーを着用せずに、世界新で優勝しようものなら、その選手の話題性は計り知れないものになるでしょう。

 ある記事によると、今までの水着素材は、出来るだけ選手が違和感を覚えないよう、着用感の良い伸縮性のある「編物」が良いとされていたそうです。 一方、編物は水を含むと生地の重さが2倍近くに増してしまう。そこでスピード社はあえて選手の着用感を犠牲にし、水の影響を受けにくい「織物」で レーザー・レーサーを開発しました。水着の固定概念を捨て、オリンピックという絶好の場で新しい商品価値が開花し得る例と言えます。

 また、メーカーという視点で見てみると、スピード社は水着を中心としたスポーツ衣料メーカーであるのに対し、日本のメーカーは総合スポーツ用品メーカーです。 様々な分野の技術やノウハウ、伝統が融合されて素晴らしい商品が生まれるケースも多々ありますが、今回の場合に限って言えば、専門メーカーによる一極集中の戦略に 軍配が上がったといえます。

 それにしても、陸上などと同様に一般的に道具では差がつきにくいと考えられていた競泳において、あそこまで完成度の高い泳ぎをする選手たちのタイムが次々に 更新されていくという快挙は、マジックと言わざるをえません。選手達に「分りやすく、見える成果を示す」ことで、当初着用に否定的であった選手たちまでもが、 その姿勢をどんどん変えていきました。北島選手の場合、レーザー・レーサーを着用することで50m泳ぐのに必要なストロークが14回から13回に減り、更にタイムは 0.12秒短縮されたそうです。ストローク数を減らすことで、後半の体力温存につながり大幅な記録更新につながったわけです。

 私達コンサルティングの現場でも、お客様から期間短縮や品質向上に対して即効性のある手法やツールの提供を期待される事がよくあります。一昔前であれば、 高スペックのマシンや3次元CADといったツールがその役割を果たしました。しかし、今ではそれらは当り前のものになっています。そう考えると、今回の水着問題も 一過性のものであり、すぐに当り前のこととして落ち着いてしまうのかもしれません。やはり基礎体力や泳ぎの技術があってこそのレーザー・レーサーであることに 間違いはありません。

 ただ、お客様の立場になって考えれば、先のようなご意見を頂く気持ちも分からなくもありません。例え一過性であっても、そのブレークスルーのタイミングを 利用し次なるステップを目指したい、そんな要望なのでしょう。

 ITIDはお客様の基礎体力や基本技術を強化するコーチ役であるとともに、今までの手法や考え方をガラッと変える斬新で効果のあるアプローチをご提供できるよう、 新たな手法の開発にも力を入れていきたいと考えています。そして、「分りやすく、見える成果」をお客様の成功事例や文献を通じて、皆様にお伝えしていければ幸いです。

執筆:妹尾 真
※コラムは執筆者の個人的見解であり、ITIDの公式見解を示すものではありません。

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