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開発部門の改善活動を活性化させるには?

「改革ができる組織は、改善ができる組織である。改善ができなければ、改革はできない。」
私は常日頃このように思っています。「改善・改革の伝道師」として有名なリコー副社長遠藤氏も以下のようにコメントされています。

日経ビジネス2010.3.29「リコー流改革の極意」
「日ごろから努力を重ね、コツコツと改善活動に取り組んだ経験のない人や企業に、果たして改革のような大手術を遂行することが可能だろうか。そんなはずはないだろう」


今回は改善と改革の違いには触れませんが、開発部門の改善活動を活性化させる方法について考えてみます。

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かつて設計開発者として装置メーカーに勤めていたころ、設計業務の傍らで、会社が制度として推進している改善活動に取り組んだことがありました。その内容は、十名強の設計者で「会議の効率化」に取り組み、半期でグループ内会議を四割削減したものです。 その効果や活動の進め方が推進事務局の目にとまり、我々のチームは開発部門代表として事業本部長への発表会に推薦されることとなりました。事業本部長に発表するのは、開発部門と製造部門から選抜された十数のチームでした。

発表会に出席して驚いたのは、開発部門と製造部門の改善活動に対する意気込みの違いです。開発部門は、テーマに図面検討会や部署間交流会といったものが多く、活動回数は半期に数回、まるで会議のように淡々と発表するスタイルをとっていました。それに対し、製造部門は、テーマ設定に製造リードタイム短縮、品質安定化、作業動線確保など、効果が明確に「ムダ取り」と分かるものが多く、活動頻度は毎週で、まるで演劇のように複数人で複数の登場人物を演じながら発表するスタイルをとっていたのです。

改善活動による定量効果のインパクトは、どの選抜チームも変わらなかったのですが、表現力・訴求力は明らかに演劇調のものが勝っていました。後に推進事務局に聞いたところ、演劇調の発表スタイルは、改善活動での発表スタイルとして製造部門に定着しており、発表会の採点基準の一つでもあるということでした。そのことを知ってさえいれば、一人三役でも四役でも演じたのですが、事業本部長賞は製造部門代表に譲ることとなり、残念な思いをしたものです。

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さて、開発部門と製造部門の改善活動に対する意気込みは、なぜ違っていたのでしょうか。

一つめは、事業本部長に発表できるチーム枠によります。制度上、発表会にエントリーする開発部門の枠は全体の二割弱しかなかったのです。改善活動を表彰すべきは製造部門である、という常識が存在しているようです。その理由は、弊社出版の「それでもコストは削れる。」でもご紹介しているように、製造部門の改善活動が会社の利益を更に押し上げると一般的に認識されているからなのでしょう。

日経BP社「それでもコストは削れる。」(P.20)
実際に日本メーカーの様々な部門で働く、異なる役職の人を対象に「企業の中で利益に最も貢献している部門はどこか?」をたずねた結果によれば、「製造・組立(量産に相当)」と答えた人が44.4%と多く、次に「販売」の30.8%が続いた。「開発」は上位に現れなかった。つまり、日本のメーカーで働く人の多くは、製造・組立(量産)を利益の源泉と位置づけており、開発の存在を軽視しているようなのである。


二つめは、刺激しあう習慣の有無によります。製造部門の演劇調の発表スタイルは、改善効果では他の活動と決定的な差をアピールできないために生まれたものだと思うのです。それぞれの改善チームが切磋琢磨した結果として、差異をアピールする発表スタイルが生まれたように解釈できます。

三つめは、改善活動に取り組む意義の明快さによります。上述した製造部門の改善活動は、「製造原価」に結びつくムダ取りとして認識されています。従って、参加者はその活動の意義を明確に共有でき、活動には正当な評価が与えられ、正のサイクルを回していきます。それに対して、開発部門の改善活動は、何に結びつくムダ取りなのかが分かりづらいのです。考えられる活動テーマとして、たとえば図面訂正率の削減、会議の効率化、設計文書の共有率向上、開発計画の最適化などが挙がります。いずれの活動も何かしらの経営数字にはつながっていくはずですが、それが「販売費および一般管理費」中の研究開発費なのか、組織的な認識は曖昧です。

これまでの考察から、開発部門の改善活動を活性化させるには、以下の三点に取り組むとよいでしょう。
・活動の評価体系を見直し、経営として開発部門の改善活動も重視する姿勢を打ち出すこと
・活動チーム間で切磋琢磨する機会を増やすこと
・経営数字に結びつく業績評価指標を設定し、それに基づいて活動を評価すること
これらを経営層が指針として掲げ、推進事務局と開発部門がその指針に沿って活動を推進することが重要です。改善活動を通じて自然と「開発力」が上がっていく、そんなしくみを作っていきたいものです。

執筆:菅 仁
※コラムは執筆者の個人的見解であり、iTiDコンサルティングの公式見解を示すものではありません。

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